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3話 【才】の勇者

「……は? 入国できない?」


 受付で衝撃の事実を聞き、俺は思わず間抜けな声を出した。


「申し訳ありません……【一般区域】のみの入国であれば許可を出せるのですが、魔導図書館がある【特別区域】となると、皆様には許可を出すのが難しく……」


 申し訳なさそうな顔で、平謝りする受付の女性。入国できないって……アルディが魔法で連絡して、許可を取ったはずなんだけど。


「えっと……オレ、ちゃんと、許可は取ったはずなんだけど……」


「はい。アルディ様から魔導機関経由で連絡が来ましたので、魔導図書館への許可証は発行することができます。ですが、その区域への立ち入りは許可することができません」


 アルディが戸惑いながら聞くも、許可はできないの一点張り。それに、魔導図書館には入れるけど、その区域には入れないって……どういうことだ?


「それが……最近、【復興区域】に住んでいる一部の反勇者派の方たちが激化していまして……【特別区域】への移動の際に、"勇者パーティーの一員"である皆様に危害が加わる可能性が高いんです。あと……その、失礼ですがいくらアルディ様の口添えでも、D級の方とそちらの方々では、身の安全を保証することはできなくてですね……。それと――」


 理解ができずにいる俺たちに、受付は簡単に説明をしてくれた。あー、なるほどそういう……


「めんどくせ……」


 なんで入国できないのか理解し、怠すぎて肩を落とす。


「……つまり、魔導図書館がある【特別区域】へは【復興区域】を通る必要があるので、身を守るすべを持たない私たちでは、許可を出せない……ということですか?」


「そういうことになります。加えて、復興区域には過去の戦争で奴隷として連れてこられ、人間に虐げられた恨みを未だに根強く持っている獣人種の方が多く……実力を証明するものもないとなると、簡単に許可を出すわけには行かないんです」


 ラフィネの問いに、受付は申し訳なさそうに頭を下げた。


 ……ちなみに、ラフィネの容姿は目立って騒ぎになるので、今は変幻の指輪で最初に会った時の姿――黒髪少女フィナの姿に変化して貰っている。


 無駄に騒ぎになって注目されるのは避けたいし、ファンクラブの連中に見つかったら俺が命を狙われるからだ。つらい。



 この国、リヴルヒイロは、勇者を支援することに重きを置いている国家――【グランヘルト帝国】の保護下にある国だ。


 ヘルト大陸の領土の三割を占める、グランヘルト帝国。


 その保護下にあるリヴルヒイロも当然、勇者を支援することを掲げている国家。


 勇者とそのパーティーは、ほぼ全ての宿屋や飲食店、武器屋などの様々なところが九割引になり、国民の多くに気持ち悪いくらいの手厚い歓迎をして貰える。


 どのくらい歓迎して貰えるのかといえば、勝手に家に不法侵入して、ツボやタンスを漁っても国からのお咎めが無いほどだ。……いやまあ、さすがに勇者の中にはそんな奴ほぼ居ないけど。てかただの犯罪者だから普通に捕まえろよ。


 そして、リヴルヒイロは大きく三つの区域――【一般区域】と【特別区域】、【復興区域】に分けられている。


 一般区域はその名の通り、一般、誰でも入国許可を貰えば入れる区域。リヴルヒイロの八割を占めていて、住民のほとんどがここで暮らしている。犯罪率も低く、街も発展していて住みやすい。


 ここだけ見れば、リヴルヒイロはかなりいい国だ。実際、収める税金も低いお陰で生活水準が高く、住みやすいことは間違いない。


 だが――他の二つ、【特別区域】と【復興区域】は違う。


 【特別区域】はその名の通り、一般では入れず、許可証を持った特別な者しか入れない区域。居住には適さず、住むことも禁止されている。


 【魔導図書館への扉】の一つがあるのもここで、他にも、底が見えないほど深い谷、【試練の谷】などの迷宮があったりする。


 ……風の噂では、グランヘルト帝国が色々と実験に使っていた区域だとかいわれているが……まあ、色々ときなくさい噂がある区域だ。【試練の谷】なんて、前は【怨嗟の谷】って名称だったのに変わってるし。


 そして最後――【復興区域】。


 ここは、数年前に突如として現れ、リヴルヒイロを襲った"悪魔"が暴れて壊滅状態に陥った区域で、数年経ったいまもなお、復興作業中の区域。


 居住区には、かつての戦争で連れてこられた獣人種の者たちが多くを占め、その中には、街を襲った"悪魔"に家族や友人を殺され、一歩間に合わず助けられなかった勇者の存在に恨みを持っている者が少なくない。


「タイミング悪すぎだろ……」


 けっこう前、俺がこの国に来たときは、復興区域でも簡単な許可を貰い、普通に入ることができた。


 あの頃も確かに、人間を嫌っている獣人種の者もいたが、好意的に接してくれる者の方が多かった。一般でも普通に入れたし……。


 それが、ちょうど俺が来たこのタイミングで暴動が激化して入れないという現状。最悪すぎる。


「【攻】の勇者であるレティノア様だけであれば、許可は出せるのですが……」


 ちらり、と受付はレティに目を向ける。レティであれば自分の身は守れるだろうし、問題ないってことだろう。


「……だってよ、レティ。じゃあここでお別れってことで。俺は一人で入国するから――」


「いやだー! ししょーも一緒じゃなきゃいやだ!」


 もうめんどいから一人で入国して、許可を得ずに【魔導図書館】に不法侵入しようと考えるも、しがみついてきたレティに止められる。このッ……離せ! 離せコラ!


 しかし、両手と両足で俺の身体をがっちりホールドされていて、離すことができない。こいつッ……!


「――まあ待てジレイ。ここはオレに任せろって」


 レティを引き剥がそうとしていると、アルディが自信ありげな表情でそう言い、受付の方に顔を向ける。


 ……どうやら、何か策があるようだ。そもそも、お前がちゃんと連絡を取って詳しいこと聞いてないからこうなってるんだけどな。ぶん殴りたい。


「なあ嬢ちゃん。頼むよ、オレの顔に免じてさ」


「……アルディ様、申し訳ありませんが学園長の貴方でも、許可はできません」


「だけどよ、絶対に入らせちゃダメっていう訳じゃないだろ?」


「…………身の安全の保証ができない限り、私個人の独断で許可することはできかねます」


「大丈夫だって! ジレイはD級だけどクソ強いし、あっちの黒髪と水色髪の二人も強いと思うし、何ならオレが護衛するからよ!」


「で、ですが……」


「なぁ~頼むよ~お願いだよぉ~!」


 断ろうとする受付に、アルディはくりくりの瞳を潤ませ、上目遣いと甘えるような猫撫で声で必死にお願いをする。その様子は可愛らしい猫そのもので、受付が「うっ……」とたじろいでいるのが分かった。


 数分後。


「――わ、分かりました。では、アルディ様が護衛をするという条件付きであれば、許可を出します……」


 アルディの説得の甲斐あってか、はたまたその可愛さに負けたのか、少し頬を染めた受付がそう言った。


「おお! ありがとよ! ほんと、助かるぜぇ…………くく」


 受付から見えないように顔を背け、「計画通り……!」とでも言いたげな極悪人顔を浮かべるアルディ。やばいなお前マジで。


 ……まあ、何はともあれ入国できるならいいか。


 そもそも、魔導図書館へ用があるのは俺一人だし、ラフィネたちに着いてきて貰う必要性は無い。


 ここは取りあえず入国しておいて、そのあとにどうにかして説得して、俺だけ特別区域に向かえばいいだろう。…………色々と、危ないだろうし。


 そう考えていたら。


「――駄目だ。許可するな」


 背後の方から、凍てつくほど冷たい声色の、男の声が聞こえてきた。


 同時に、周囲で入国受付をしていた人たちが、ざわめきを見せ始める。


「……?」


 俺が「なんだろう」と思いながら、振り返ると。


「で、ですが……【才】の勇者様。アルディ様の護衛があれば問題ないかと――」


「聞こえなかったか、女? 俺が駄目だと言っている。口応えをするな」


 炎のような赤髪に、金色にギラギラと輝く瞳。


 顔立ちは眉目秀麗で整っていて、長いまつげと切れ長の瞳が色気すらも感じさせる。


 けっこう、いやかなり、顔が整っている男だ。俺と同じくらい整っているかもしれない。


 ツカツカと、堂々とした態度で、こちらに歩み寄る男。


 そして、冷たく、命令するかのごとく尊大な口調で、こう言った。


「感謝しろ。"【才】の勇者"である俺が、雑魚のお前らに命令してやる。D級、白魔道士、黒髪女、【攻】。いますぐ俺の前から――――消え失せろ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろかったです♪これからも無理なさらず頑張って下さい
[一言] お金のことはどんな形なのか?ということです! 名前のことは全く気にしなくていいんですよ ただいっておきたいのですが私の名前の意味は抜けた髪の毛がそのまま取り残されたっていみです この才の勇…
2020/10/29 22:08 取り残された髪の毛
[一言] その「才」の勇者ともどこかで出会ってたり?w
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