32話 4年前
「――《上位治癒》! ……《上位治癒》! …………なんで、なんで――!」
広く薄暗い洞窟内に、少女の声が反響する。
その少女――透き通るような水色の髪と瞳を持った人物は必死な様子で、先ほどから何度も何度も、《回復魔法》を倒れ伏した青年に対し、行使していた。
「なんで……どうして――――効かない、の」
しかし、《回復魔法》を青年の胸部分、ぽっかりと穴が空いた箇所に何度行使しても、一向に治癒される気配はなかった。まるで――何かに弾かれているかのように。
「お願い、死なないで……!」
水色の少女はそれでもなお、諦めることなく何度も何度も《回復魔法》を青年に掛け続ける。しかし――
「――――――――ぁ」
青年の僅かに吐いていた息が――完全に止まったのを見て、擦れた声を漏らした。
「ぁ、ぁぁぁ……」
少女は壊れた人形のように、言葉にならない声を口から吐き出す。
――また、私のせいで人が死んだ。
少女の脳内に想起されるのは過去の記憶。自分のせいで死なせてしまった、人々の姿。
「ぁぁ……ぁあああああ……」
水色の少女はピクリとも動かなくなった青年の遺体に縋りつく。
その絶望した、機械の如く虚ろな表情はまるで……あの頃、4年前の――灰色だった頃の少女に戻ってしまったような錯覚すら感じさせた。
少女が一人の人間としてではなく――――"悪魔"と呼ばれていた、あの頃に。