表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/122

29話 権能

「……やっぱり、怒ってるじゃないか。うーん、さっき謝ったからボクがこれ以上謝る必要は無いし……どうしようかな?」


 エンリは俺から吐き出された言葉を聞いて、「うむむ」と腕を組んで考え始める。


「どうしようも何も……選択肢は一つだけだ。俺は逃げないしお前も引く気が無い。……というより引かせない。お前には俺の、このストレスの発散相手になって貰わなきゃいけないからな」


「……ボクと戦うってこと? むむむ、止めたほうがいいと思うけどなぁ。それに……どうやってボクと戦うの?」


 エンリはわがままを言う子供を見るような目で、困ったように眉をひそめた。どうやって? そんなの決まってるだろ。


「決まってる。お前を――――?」


 右手に魔力を練り、魔力弾をぶちかまそうとするが……なぜか、一向に魔力を練ることができないことに気づいた。


「なんだ、これ。魔力が――――無い?」


 身体中から体内魔力(オド)を集めようとしても、なぜか一切存在しない。……まるで始めから無かったかのように。


 それならと、外界魔力(マナ)を使おうとしても、一向に魔力が集まる気配が無い。どうなっている?


「あは、やっと気付いた? いつ気づくんだろうって思ってたよ」


「……お前が、何かしたのか」


「正解! さっきロレイの左腕を"食べた"ときに、ついでにロレイの体内魔力(オド)と、この空間の外界魔力(マナ)を食べておいたんだよねぇ。ロレイの魔力を例えるなら、芳醇なコクと香りが強い、上質なワインって感じかな。すごく、すっごくおいしかったよ。癖になっちゃいそうなくらいね。……ごちそうさま?」


「…………は?」


 意味が、分からない。


 敵の魔力を奪う魔法? 考えられるとしたら《吸収(ドレイン)》くらいしか浮かばないが、それでもあれは対象にずっと触れていることが条件だったはずだ。あんな一瞬の出来事で俺の体内魔力(オド)を全部持って行くなんて……不可能なはずである。


「勘違いしてるかもだから言っておくけど……《吸収(ドレイン)》じゃないよ? これは僕の――【暴食(グーラ)】の《権能》だからね。……ほら、これで食べたのさ」


 そう言い、ぱちんと指を鳴らすエンリ。すると、エンリの周辺の空間が湾曲して――


「な――」


 ――現れたそれは、エンリの周囲を無数に漂っていた。


 大きさは大小問わず、握り拳ほどの大きさのモノもあれば、人間が数人分ほどの大きさのモノもある。


 形態も様々で、獣のモノのような形もあれば、人間のモノのような形もあった。


 ソレは、個体一つ一つがまるで生きているかのごとくゆらゆらと動き……笑ったような、泣いているような、喜んでいるような――様々な感情を表現している……ように、見えた。


 俺は突然、無数に現れたソレ――"歯や牙を持った、黒い口のようなナニカ"を見て……あまりの禍々しさに、顔を強張らせることしか出来なかった。







「……なんだ、それ」


 ぽつりと、呟く。


 あまりにも禍々しい物体だった。見ているだけで背筋がぞっとするような……この世ならざる物体だった。


「何って……さっき言ったじゃないか。これがボクの【暴食(グーラ)】の《権能》――《捕食》さ。本当は自分の手の内を晒すなんて、馬鹿のすることだからやりたくないけど……こっちが先に不意打ちしちゃったからね。このくらいはサービスしておかないと、フェアじゃないでしょ?」


 エンリは場違いなほど軽快で明朗な口調で、楽し気に喋る。その様子が禍々しい物体――《捕食》と対照的で、より一層、狂気的に見えた。


「……その物体からは魔力を感じない。つまり……《魔法》でも《呪術》でも無い。となると考えられるのは――《加護》か」


 それしかあり得ないと思い、断言するが。


「えぇ? いやだからさ……《権能》だっていってるじゃん。《魔法》でも《呪術》でも《加護》でもない、【暴食(グーラ)】の魔王に選ばれたボクだけが使える《権能》だよ。……何回も言ってるんだけどな」


 エンリは呆れた様子で否定し、溜息を吐く。【暴食(グーラ)】? 魔王? 何を言っているのかまったく理解できない。


 まさか、こいつが魔王? ……いや、それは考えられないか。

 

 なぜなら、今代の魔王はまだ誕生していないからだ。誕生したら預言師にお告げが降りるはずだし、勇者が討伐しに行く。それが当たり前であり常識だ。


「あれ、そう言えば――人間は魔王が一人だけだと思ってたんだっけ。……忘れてたよ」


「は? それ、どういう意味――」


 意味の分からない言葉に、問いかけようとするが。


「おっとっと……危ない危ない。これは言っちゃいけないんだった。……まあ、別にどうでもいい事だから気にしないでいいよ? 君には関係ないことだし」


 誤魔化すように、そう呟くエンリ。


「それより――やるなら早く始めようよ。いい加減、喋るのも疲れちゃったからさ。……まあ、魔力が無くなった君に、できることなんて無いんだけど」


「……? 何を言っているんだ?」


 魔力が無い俺に、出来ることが無い? 何でそんなこと――


「だって……君は魔術師でしょ? 魔導大会で君の魔力を"視た"けど……あんなに膨大な魔力、魔術師しかありえないじゃないか」


「……魔術師?」


「剣士……と言うには装備が貧相で鎧も籠手も胸当ても一切付けてないし、なんならそれ、普段着じゃない? 一応、護身用に長剣を腰に下げてるみたいだけど……魔術師だと分かれば、怖くもなんともないよ。滑稽なくらいだ」


 若干小ばかにしたような声色で、やれやれと肩をすくめるエンリ。護身用? 魔術師? いや、俺は――


「魔力が無い魔術師なんて木偶も同然だからね。楽しいお話もしてくれないみたいだし……僕も、無駄な会話で喋りたくないんだよ。だからさ――」


 エンリはにっこりと満面の笑みを浮かべ、別れの挨拶をするようにひらひらと手を振り。


「――さよなら、ロレイ」


 無数の《捕食》を、凄まじい速度でこちらに撃ちだした。


 四方八方から襲い来る、無数の禍々しい大口。


 それを見て俺は、"腰に下げていた久しく使っていない長剣"の持ち手を右手で握る。そして――


「別に、俺は魔術師なんて言ってないんだが」


 ――鞘から抜いた漆黒の剣身で、禍々しい《捕食》を全て切り落とした。


 一瞬で幾度も剣を振り、木っ端微塵になるように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] かなり面白いです。 ほぼなんでも知っていそうなジレイでも知らないものを出したり意外な展開も多く楽しめました
[気になる点] 27話で食われたのは左腕ですが、エンリがセリフの内で右腕と言っているので修正お願いします
[良い点] 主人公のカッコ良さが凄い [気になる点] 特にないです [一言] ワクワクしてここに来て1日1更新がもどかしいです 次も楽しみにしてます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ