25話 儀式
「楽しい……楽しいな……」
薄暗い、湿った洞窟の深層。
黒いローブ姿の人物が、狂気的な笑みを顔に張り付け、不気味に独り言を呟いていた。
薄暗い洞窟の中にも関わらず、光源は一切つけていない。それが一層、不気味さを際立たせている。
「――ッ! ――ッッ!?」
暗闇の中。洞窟内の広い空間に不気味な声と……どこか、くぐもった声が反響した。
「ぷ、くくく……どうしたんだい? 助けて欲しいの?」
黒ローブの人物はそのくぐもった声の方向を見て、堪えられないと言った様子で吹き出し、そう問いかける。
問いかけられた人物は声を出せないのか、必死に頭を振ってブンブンと頷かせた。
「そっか。仕方ないな……じゃあ、助けてあげよう」
「――! …………ッ!? ッッ!! ッッ!??」
救いの言葉に、その人物は一瞬だけ希望的な表情になるが……なぜか黒ローブの人物が、手に持っていた――"大きな鉈"を自分の頭上に振り下ろさんばかりに掲げたのを見て、「話が違う」と言いたげに声を荒げる。
「ひひっ……助けてあげるよ? 僕なりのやり方だけど……ねッ!」
「――ッッ! ――ッ!?」
そして、鉈を勢いよく振り下ろす瞬間。
「――っ……なんだ。ネズミか」
視界に映った物体――"灰色"のネズミを見て、手を止めた。ネズミはチチッと鳴き声を上げ、素早くどこかに去っていく。
「せっかく楽しかったのに……邪魔するんじゃねえよクソが。……あーあ」
黒ローブの人物は振り下ろそうとしていた鉈を下ろし、先ほどまでの楽しそうな様子と口調を一変させ、ぶつぶつと陰鬱に悪態を吐く。
「……まあ、いいか。あとこんなに、楽しみは残ってるんだから。楽しいことはゆっくりやらなきゃ」
ちらりと、周囲を見渡して狂気的な笑みを浮かべる人物。視線の先には先ほどの人物と同じような体格の――少年や少女が、寝ているのか静かに倒れ伏していた。
「――ひひっ。あぁ……なんて僕は幸運なんだろう……? 幸せだ……幸せだよ……!」
静かな空間に響く、心底楽しそうな笑い声。
「感謝します……感謝します……」
黒ローブの人物は急に、突拍子もなく地面に膝をつき、祈りを捧げるように手を組んで感謝の念を吐き出す。
そして、ここには居ないどこかの誰かに伝えるかのごとく、腕を大仰に広げて、叫んだ。
「敬愛なる我が主――"暴食様"!」




