23話 世界樹の祝福
――《世界樹の祝福》
本当にあるのかどうかすら分からない、眉唾物の《回復魔法》。御伽噺『世界樹』の中にしか出てこない、伝説の魔法。
その効果は絶大で、通常の《蘇生》が頑張って死後最大10日までに加え、霊魂が残っていることが条件なのに対し、《世界樹の祝福》はどんなに期間が空いていても、霊魂が現世に残っていなくても蘇生が可能というとんでもない魔法。
しかも、自分で自分に《蘇生》をかけることは制約上不可能だが、《世界樹の祝福》は強力すぎる魔法の癖に、なんと制約が一切存在しない。
なので死後、無条件で自動的に術者を蘇生するように設定することができるらしい。強すぎるだろ。
そもそも《蘇生》自体がかなり高度で難しい魔法。白魔導士教会の上層部で情報を秘匿していることもあり、一般の白魔導士に習得方法が知れ渡ることはない。
教会に強力なコネがあり莫大な寄付金を払わなければ《蘇生》を使ってもらうことも出来ないし、貴族でも知っている者の方が少ないだろう。
俺が習得しているのも正規のルートではなく、教会に不法侵入して勝手に覚えたのだ。どうしても覚えたかったからね。しょうがないね。
つまり……通常の《蘇生》ですら習得が難しくて眉唾なのに、《世界樹の祝福》はそれ以上の眉唾伝説魔法ということだ。
侵入した一番大きい教会でも《世界樹の祝福》の情報は無かった。だから当然俺も覚えていない。そんな魔法をイヴは探している。でもそんなもの――
「――あるわけない。……と思うかもしれない。でも何年、何十年経ってでも絶対に見つける」
はっきりとした声で宣言するイヴ。その声色に籠った気持ちは俺には汲み取ることができない。
「俺が数年前に見た時は、白魔導士教会にすら情報は無かった。……それでもか?」
「……それでも、諦める訳にはいかないの。私には、これしか希望が無いから」
「……そうか」
何があっても見つけて見せるという、揺らぐ事の無い固い意思。
きっと……それほどイヴにとって大切な人物なのだろう。そうでなければ、死んだ人間にこんなに執着はしない。
「俺も……何か情報を得たら教える」
「……ありがと」
そんなことを言いつつ、
「だから――チケット、お願いできるか?」
と、真剣な顔で自分の要求も言っておいた。
イヴは「……忘れてた。もちろん、あげる」とペアチケットを取り出し、こちらに手渡す。俺はすぐさま無くさないように《異空間収納》の中にぶち込んだ。
「よし、じゃあ俺帰るわ。話も終わったし――」
ドアを開けて帰ろうとすると。
「――イヴ嬢! ジレイを探すの手伝って欲し――ってジレイ!? こんなとこにいたのかよ! なんでイヴ嬢の部屋に……いやそれより大変なんだ!!」
開く前にドアがバァン! と勢いよく開かれ、もふもふの猫――アルディが入室してきた。
「……それよりなにか弁明はあるか? お前のせいで、めちゃくちゃ鼻が痛いんだけど」
イヴの部屋に入ってから油断して《身体強化》を解除していたので、生身の鼻にドアが思いっきりぶつかってめっちゃ痛い。マジこいつボコボコにする。
「わ、悪ぃ。……いや、そんなことより大変なんだって!」
「何が大変なんだよ。俺の鼻の方が大変なんだが?」
首根っこを掴み、外に連れ出して魔導大会の件も含めてボコろうとすると……アルディは焦ったような迫真の顔で、叫んだ。
「居ないんだ……ジレイに任せた生徒たちが――――どこにも、居ないんだよ!」