16話 魔導大会終了
半日後。
1回戦に無事勝利し、なんやかんやあって2回戦も勝利して、最終戦までやってきた。
ここまでの戦績は、今から戦う対戦相手と俺が2勝0敗ずつ、ロードが0勝3敗、2回戦で戦った魔導士が1勝2敗という結果だ。
ちなみにロードが連敗しているのは自信があった《絶対防御》があっさり突破されてしまい、あれからずっと部屋にふさぎ込んで棄権しているらしい。なんかごめん。
2回戦目の対戦相手は、完全に魔法戦闘特化の魔導士だったので、相手が魔法を使う瞬間に術式を掻き消した。
そしたら「うぅ……何でぇ……」とか涙目になって(というかちょっと泣いてた)降参を申し出てきた。
そして――最後の試合、最終戦。
「では――試合を開始してください!」
試合開始のホイッスルが鳴り、俺は対戦相手を観察する。
年齢は16歳くらいの少女。
顔に仮面のような目だけを覆う魔道具を付けており、地面に付くほど長い銀色の髪。
服装はこれから戦うとは思えない、黒を基調としたゴシックドレスを纏っており……どこか、怪しげな雰囲気の少女だった。
解説の情報によると、冒険者を初めてわずか1週間でB級にまで上り詰めた天才らしい。しかし、どうやってそこまで早い昇格を果たしたのかは謎で分かっていない。
その戦闘スタイルも謎に包まれており、戦闘開始と同時に黒い霧が発生するせいで何をやっているのか分からないし、対戦者も何をされたのか覚えていないという。
つまり……まったくの未知数。どれほど強いのかが全く分からない。
身に纏う魔力にも何やら黒い歪みがあることから……偽装しているのは間違いない。いずれにせよ、油断はできない相手という事だ。
俺は警戒し、相手の出方を伺うが、
「初めまして。ロレイ……だったかな? ボクはエンリ。若輩者だから、お手柔らかにお願いするね?」
柔らかに微笑み、こちらに片手を差し出す少女――エンリ。
……あれ。なんか第一印象の謎めいた感じと違って、謙虚で明朗な親しみやすそうな少女だ。案外いい奴なのか?
「おう、よろし――」
俺もエンリと同様に手を差し出し、握手するが、
「……いッ!」
――ピリッと手に電流が走ったような感覚を覚え、すぐに離す。なんだ、今の?
魔法を使う素振りは一切なかった。というか魔力の流れを一切感じなかったから魔法はあり得ない。
そもそも俺は常時、寝ているとき以外は基本的に《身体強化》で肉体を防護している。
だから、余程の事が無いかぎり痛みを感じることはないはずだ。それなのに、なぜ――
突然の攻撃に抗議しようとエンリの方を見る。
「――! きみ――」
しかし、エンリもこれは想定外のことだったようで、驚いたようにこちらを凝視していた。え、お前がやったんじゃないの?
「……そっか、残念。あと少しだったんだけど……まあ、仕方ないかな。せっかくだから食べてみたかったけどね」
「……?」
ため息を吐き、意味の分からないことをブツブツと呟くエンリ。食べる……? 何言ってるのか分からないんだが。
「審判さん。この試合、降参するよ。ここじゃ――――勝てないから」
そして、なぜか降参を申し――え、なんで? 俺なんもしてないんだけど。
「おい――」
「また、別のどこかで会ったら――その時は、ゆっくりお話しようね。……じゃあ、また」
エンリは一礼してからスタスタと闘技エリアを降りて行き、退出する。
あまりのあっけない結末に会場にいる誰もがポカーンとした顔をしていて、会場内は静寂に包まれた。
数瞬あとに、実況がハッと気が付き、
「ゆっ……優勝は――――"D級冒険者"、"ロレイ・ラージ"選手ぅうううううう!!!」
と、大きな声で叫んだ。
「何これ」
なんかよく分からんけど優勝した。
¶
「なんか締まらない優勝だな……別にいいけど」
俺は賞金と魔道具を貰うために、豪華な別室のこれまたでかいソファの上で寝転がり、待機していた。
大会の終わり方はめちゃくちゃ不完全燃焼ではあったが、勝ちは勝ちである。観客は盛り上がらないラストにブーイングの嵐だったが、俺にはそんなことは関係ない。
それと……優勝者である俺と少し話したいという人物がいるらしい。
面倒だから断りたかったのだが、優勝者の義務と言われてしまったので、仕方なく話を聞くことにした。まあさっさと金と魔道具貰って帰るからいいけど!
「賞金か……いくらくれるんだろ。王族だから1億リエンくらいくれちゃったり? それだけあれば魔道具がいっぱい買えるな。賞品の魔道具もいい物に違いないし、最高かよ……!」
賞金の使い道と、貰える魔道具を夢想し、盛り上がる俺。超たのしい。
「――ロレイ様。お待たせいたしました。……"エレナ様"、どうぞ」
「――失礼いたしますわ」
コンコンとドアをノックする音が鳴り、ドアが静かに開かれる。……ん、エレナってどこかで聞いたような気がする。
「お初にお目に掛かります。まずは自己紹介を。わたくしはマギコスマイア第六王女――エレナ・ティミッド・ノーブルストと申しますわ。……以後、お見知りおきを」
俺はその人物の名前を聞いて慌てて、ソファから跳ね起きて佇まいを正す。
「こ、これはこれは、わざわざご足労いただき――」
「敬語は不要ですのよ。これからのわたくしと貴方の間には――そんなもの必要ないですわ」
「へ? いや、そういう訳にはですね……」
「お気になさらないでくださいな。ロレイ・ラージ様――いえ、"ジレイ・ラーロ様"」
慣れない下手くそな敬語で喋る俺に、なぜか大会ネームではなく、実名で呼ぶ人物……マギコスマイア第六王女であり、この大会の主催者でもある重要人物の少女。
金髪のくるくるとした、特徴的な巻き髪に、サファイアのような碧い瞳。
華美で高貴な印象を受けるドレスに身を包んだその少女――エレナ・ティミッド・ノーブルストは、自信満々な声色でこう言った。
「貴方を――――わたくしの、夫にしてあげますわ!」