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15話 黒歴史

「いますぐそれをよこせ。完膚無きまでにこの世から消滅させるから」


 そもそもあの黒歴史ノートは昔、俺みずからの手で完全に燃やし尽くしたはずだ。


 修復不可能なように跡形も残さず燃やして塵にして、誰にも見つからないように迷宮の最下層に撒いた。なのになぜこいつが持っているのか。意味が分からない。


「フッ……我と"王の書"の出会いはまさに導きだった……迷宮探索中、最下層に隠された王の書の残骸に込められた膨大な魔力を一つ一つ探し出し、丁寧に修復魔法で復元していったのは今でも覚えている……! あの出会いが我を変えてくれたのだ……!」


「人の黒歴史になんてことしてんの?」


 そういえば、あの時は何も考えずに「どうせ作るなら魔力込めまくっておくか。そっちの方がかっこいいし」とかいう理由で無駄に魔力を込めていた。どうやらそれが原因で復元されたようである。最悪かな?


「――そして、我の目的はただ一つ。我を変えてくれた"(マイロード)"――ジ・ゼロに出会い、従者(バレット)としてこの身を捧げることのみ! この大会に出場したのも、ジ・ゼロの趣味が"魔道具集め"だと記述があったからにして――」

「いいから早くその物体をよこせ! もう二度と復元できないように消滅させるから! 早くよこせ!」


 「早くしろ」と催促するも、一向に渡す気配が無いロード。しまいには"ジ・ゼロ"がいかに自分を変えてくれたのかを語り、布教をし始めた。


 ……穏便に済ませようと思っていたが、どうやら難しいようだ。試合開始から長々と話してて観客もブーイングし始めたし、もう終わらせよう。


「――"王"は一向に我の前に現れてくれない。だが我は既に――"王"の目星が付いている」


「……なんだと?」


 魔弾で消滅させようと手を掲げるが――ロードの発言に思わず聞き返す。目星が付いているって、そんなバカなことがあるわけ――


「我は……近頃、勇者の間で有名な――"ジレイ・ラーロ"なる人物が"王"なのではないかと推測している」


 ――あった。がっつりバレてた。


「な……何の根拠があって――」


「最近、勇者ランキング上位のレティノア嬢が、熱心に入れ込んでいるという人物が勇者の間で話題でな。言伝によると――"何者にも負けない絶対的な力"、"だれよりも勇者といっていいほどに民を想う慈愛心"、"魔道具が好き"、"レティノア嬢のパーティーに所属(予定)"――――らしいのだ」


「やりやがったなアイツ……!」


 どうやら、レティが色々と言いまくっていたようだ。なんてことしてくれる。


 レティのパーティーに所属する予定なんて微塵も無いし、慈愛心とか欠片も無い。俺のイメージが間違いまくってる。


「これなら、我の想像していたイメージとも合致するし、"王"たるジ・ゼロも無類の魔道具好き。名前も"ジレイ"と"ジ・ゼロ"で似ている……これはもう"王"に違いないであろう!」


 手を大仰に広げ、自信満々に言い放つロード。死にたくなってきた。


 ……絶対に、何が何でもあの黒歴史ノートを書いたのが俺だとバレないようにしよう。バレたら死ぬ。恥ずかしすぎて俺の心が死ぬ。


「フフ……"ほかの勇者たちも動き出した"ようだし、我も早くジ・ゼロを探し出し、従者にして貰わねばならぬ……! ああ、待ち遠しいぞ……!」


「……ほかの勇者? 動き出した?」


 聞き捨てならない単語が聞こえた気がする。


「あのレティノア嬢が入れ込むほどの人物であるぞ? しかもまだ、パーティーには正式に所属していないと言う。……優秀な人材を常に求めている勇者の間で、争奪戦が起こるのは――当然であろう? もちろん我も例外ではない!」


「最悪だ。最悪すぎる」


 そんな情報聞きたくなかった。


 レティだけでも手を焼いているというのに、まさかほかの勇者にも狙われてるとは……最悪すぎる。


「フッ……驚いているようであるな? "D級冒険者"である貴様には関係ない話だったかもしれ…………む? そういえば、"ジレイ・ラーロ"なる人物も"D級"と聞いたような……? よく考えたら、ロレイという名前もどことなく似て――」


「気のせいだ。それ以上考えるな」


 顎に手を当て、思案し始めたロード。見た目アホっぽいのに無駄に鋭い。


「……まあ、いい。我がこの大会で優勝して賞品の魔道具を手に入れれば、"王"からのコンタクトがあるであろうからな。その為に、貴様には負けてもらおう。――――《絶対防御(アブソリュートディフェーザ)》」


 ロードは前髪をファサッ掻き上げたあと、かっこよさげなポーズを取りながら、《絶対防御(アブソリュートディフェーザ)》を展開させた。


 聖印図鑑で見た情報では……過去の【硬】の勇者は《絶対防御》を展開して理不尽ともいえる防御力を維持したまま、聖剣や大盾で攻撃を行う戦闘スタイルを行っていたらしい。


 ……だが、こいつは見たところ、腰に下げた聖剣らしき長剣を抜く様子も無いし、何ならかっこよさげなポーズのまま微動だにしない。何してんだ?


「"魔弾使い"よ! 早くかかってくるがいい! そして我の《絶対防御》のあまりの防御力故に、絶望に誘われるがよい……!」


 口は達者だが、一向に攻めて来ないロード。あ、もしやコイツ――


「もしかしてお前――攻撃は出来ないのか?」


 確か【硬】の勇者の中でかなりのイレギュラーとして……《絶対防御》を展開中、移動不能で攻撃が一切出来ないようになる勇者もいたと書いてあった気がする。


「……フッ。我の《絶対防御》は攻守一体。聖剣《深淵ノ黒剣》で直接手を下すまでも無し……それに、この剣なぜか抜けんのでな……!」


 ロードはかっこいいポーズを維持したまま、堂々と情けない事を言った。すごくかっこ悪い。


「そうか、動けないのか……よし」


 その姿を見て、あることを思いついた。


 こいつは【硬】の勇者で《絶対防御》を展開中。


 つまり並みの魔法は効かないってこと。

 

 この闘技場には《競技戦場》が掛かっていてどんなに壊れても元通りになる。


 そして俺はいま変装中。


 と、いうことは――


 ――本気で魔法ぶっ放しても、問題ないんじゃね?

 

 よし、さっそくやってみよう。使う魔法は……あれでいいか。たぶん一番火力高いと思うし。


「――黄泉に宿りし悪霊よ。朽ちし死神の幻霊よ。我が魔力を殻と為し、現世に顕現せよ。敵を、味方を、弱者を、強者を……我が正義を以って敵を処刑し、世に混沌を為せ――《浄化虐殺(カルネージカタルシス)》」


 長い詠唱が完了し……闘技場内が数多の魔法陣で埋め尽くされる。そして――


「……へ? ちょ、ちょっと待ってくれ、それはさすがに無理――」


 無数の魔法陣から出現した、禍々しい幻霊が一斉に大口を開け――膨大な魔力をロードに向かって咆哮した。


 空気がビリビリと震え、視界が閃光で埋め尽くされたので目を瞑る。まぶしい。


 数瞬あと、目を開けて確認すると。


 俺の立っていた所を除く《競技戦場》が掛かっていた闘技エリアがすべて、ごっそりと消滅していた。


 代わりに、底の見えないほど深い大穴を残して。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れ様でした。 最終戦なんだから、適当に戦うか、結界ごと押し出してリングアウト(闘技場外に飛ばすのもいい)すれば無難におわったのになw(呪文が中二病派手すぎて『王』認定されるんじゃな…
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