2話 金がない
「金がない」
泊っている部屋のベッドの上で、数日前と比べてすっかり軽くなった財布を見ながら、そう呟いた。
「残り500リエンか……やばいな……」
こんなはした金では、今晩の宿代にすらならない。せいぜい、安めのパンを数個買える程度だろう。
「クソッ! なんでこんなに金がないんだ!?」
いや、原因は分かっている。どう考えても仕事をしてないからである。
今までは無くなる前にちょっぴり働いてお金を補充していた。でも今はそれができない状況だった。
「それもこれも……全部あのクソ勇者のせいだ」
思わず、羽のように軽くなってしまった財布を、地面に投げつけたくなる。
数日前――正確には12日前に勇者パーティーに勧誘され、約束をすっぽかせば何とかなるだろうと宿屋に引きこもったのが間違いだった。
「なんでアイツ、まだこの街にいるんだよ!」
そう、あのクソ勇者――レティはまだこの街に滞在していたのだ。
発見したのは昨日。「そろそろ諦めただろ」と思い、依頼を受けようとギルドに赴いたら、受付でやたらと騒ぐレティの姿。
すぐさま来た道を逆走して逃走したのでバレはしなかったが、去り際に「黒髪の冒険者」というワードが聞こえたのでまだ俺を探しているのは間違いなかった。ちくしょう。
レティが去るまで引きこもるにも、金がないので泊まれない。依頼を受けようとしたら見つかる可能性がある。
「……仕方ない、依頼を受けにいこう」
少し考えた後、やはり金がないのはどうしようもないので依頼を受けることにした。まあ、いない時間帯を狙っていけば大丈夫だろう。そう、きっと大丈夫。
¶
「……お! この依頼いいじゃん!」
コソコソとレティがいないことを確認しながら移動してギルドにつき、依頼掲示板を見ていると、ちょうどいい新規依頼が張り出されていた。
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《隣国エタールまでの護衛依頼》
受注資格:道中の魔物、盗賊を撃退できる力を
持つ者、ランク不問
募集人数:10人ほど
待遇:護衛分の馬車あり、食事は各自持参。
報酬:固定報酬15万リエン、追加報酬あり
依頼人:非公開
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隣国エタールは馬車で5日ほどで到着する国だ。
固定報酬が15万ってことは、1日あたり3万リエン、1日あたり5000~12000が相場の護衛依頼としては破格の待遇である。
こんな太っ腹な護衛依頼は大抵、貴族か大商人くらいしか出さない。もしくはAランク以上の冒険者に依頼するときくらいだろう。
「依頼人が非公開なのが気になるな、でもランク不問で固定15万はおいしいし……隣国までの護衛依頼っていうのもいい。そのまま戻らなければレティから逃げられそうだ」
少し悩んだ後、受けることにした。募集人数が10人だし、こんなおいしい依頼はみんな受けたがる。無くなる前に受注してしまうことにする。
俺はギルドに受注することを告げ、詳しい依頼内容を聞いた。
どうやら、明日出発するらしい。かなり早い、報酬が高額なのも、早く人を集めたかったからかもしれない。金がないので早いのは僥倖だった。
その後、レティに見つからないように泊っている宿屋に戻り、500リエンで泊まれないか交渉した後、馬小屋なら空いていたのでそこに泊まることにした。
懐いたのかやたら舐めてくる馬を押しのけ、グーグーと鳴る腹を抑えながら、つらい夜を明かした。
翌日。
「久しぶり! パーティー申請出来てなかったみたいだから申請書を貰ってきたぞ! これにサインしてくれ!」
依頼の集合場所に行くと、桃色の髪の少女――レティがいた。
「なんでお前がいるんだよ……!」