6話 水色の少女
ルダスとの決闘に勝利し、初授業をしてから数日後。
「死ぬ……! 疲れ死ぬ……!!」
俺は、講師のみが使える休憩室にて、死んだようにテーブルの上に顔を突っ伏していた。
「どうしてこうなったんだ…………これも全部、アルディが悪い。絶対、あとでボコボコにしてやる……」
元凶に向けて、恨みがましい声で呪詛を吐き出す。周りの講師陣がこっちを見て、ヒソヒソ声で何かを言っているが、いまはそんなことどうでもいい。そのくらい疲れていた。
「だるい……早く帰って、暖かい毛布にくるまりたい……」
だがそれはできない。なぜなら、まだ午後の授業があるからである。
「あいつら最初と違うじゃん……なんでやる気出してんだよ……!」
そもそも俺は、適当に自習にして、魔導大会まで籍だけ置いておけばいいかなと思っていたのだ。
それなのに、決闘に勝ってからなぜか、生徒たちは手のひらを180度返し、懐いてきた。なんでだよ。
しかも「魔法を教えて欲しい」としつこくせびられ、強制的に授業をさせられる始末。
あれから毎日、休みの日も家に押しかけてきて、授業や模擬戦という名の拷問をさせられる。もはや俺の肉体と精神は限界状態。ふざけるな。
っていうか、休みの日は来るなよ。シャルが喜んでる手前追い返せないし……ちくしょう。
「でもあと数日の我慢だ……あと少しで解放される!」
魔導大会まで残り数日。
この期間をなんとか凌げば、もう関わることはない。アルディはしつこく引き留めてきそうだが、適当に撒けばたぶんなんとかなる。あと少し、あと少しの辛抱だとは分かっている。分かってはいるんだが――
「めんどくせぇ……」
「めんどくさい……」
心の底から、思っている言葉を吐き出した。
やっぱりめんどくさいものはめんどくさい。やりたくないことはやりたくない。でもそれだと生きていけない。難儀な世の中である。
…………あれ? ていうかいま、ハモったような気がする。気のせいか?
確認しようと、声のした方向――具体的には右真横に、伏せていた顔を向ける。すると――
「……あ」
相手もちょうどこちらを向いたようで、ぴたりと、視線が合ってしまった。
透き通るような、水色の髪と瞳。
外見年齢は15歳前後。
髪色によく似合った、爽やかな服装を身にまとっている、貴族のお嬢様を思わせる風貌。
顔の造形は非常に整っていて、美少女と言っても差し支えない少女。
……なのだが、冷めた目と無表情のせいで、全てを台無しにしてしまっている。
全身からは「帰りたい」と言いたげに気怠げな雰囲気を醸し出しており……どことなく俺と似ていて、親近感を覚えた。
というかこの少女、どこかで見た気がする。それもつい最近、同じ依頼を受けたような?
「……どうして、あなたがここにいるの」
誰だったか、思い出そうとしていると、水色の少女が顔を少しムッとさせ、半眼で睨んできた。……ん? この声、もしかして――
「お、おお……ひ、久しぶり?」
やっと誰だか思い出した。
そして想定外の遭遇に頬が引きつり、震えた声でそう返す。……最悪だ。なんでこんな所にいるんだ。
どうするどうすると、頭を必死に回転させる。
こいつがいるってことは……レティも来てるのか? だとしたら絶対にめんどくさいことになる。逃げてきた意味が無くなるじゃないか。
「……久しぶり」
レティのパーティーに所属している少女――イヴ・ドゥルキスは、いぶしかげにこちらを睨み……ぼそっと、そう呟いた。