5話 魔法講座
「――で、ここがこうなるから、最終的にはこんな結果になる。分かったか?」
あれから――俺と生徒たちは教室に移動し、魔法の授業を行っていた。
めちゃくちゃめんどくさくて本当はやりたくないのだが、あまりにもしつこかったので仕方なく、である。もう帰りたい。
あと……こいつらが最初やる気ないように見せていたのは、新しい講師が入ると聞いて、試していたらしい。
なんでも、今までの講師は自分たちの家柄しか見ず、内容も教科書通りの事しか言わなかったから、それなら自分たちだけで学ぼうと思い、追い出していたという。なんだそりゃ。
決闘を受けた講師も俺が初めてだったようで、今までの講師と違う、対等に見てくれる態度が気に入っただとか。別に俺は気に入られたくなかった。
「――いや、分かんないんだけど!? もっとちゃんと説明してよー!」
教室の最前列の席に座っている、かなり化粧が濃い女子生徒――セーノが不満の声を上げる。
「だから……魔法対決は、基本的に魔力量が高い方が勝つ。でもこれが同質の魔法だったら、こうこうこういう計算式で――最終的にこんな結果になるんだよ。簡単だろ?」
「簡単……? そもそも、初級魔法が最上級魔法に勝てるっていう所から意味が分かんねえよ! そんなの聞いたことないぞ!?」
俺がすごく分かりやすく説明しても、「???」と頭に疑問符を浮かべる生徒たち。俺の説明が悪いのか? 単純な話なんだが……。
「……それは、魔法詠唱に囚われすぎだ。本来、魔法ってのはもっと自由なもので……そうだな、例えば――《火球》」
俺は説明の為に、右手に初級魔法の《火球》を展開させる。魔導士なら誰でも使える、入門魔法のようなものだ。この教室で使えない人間はいないだろう。
「この《火球》を、今からルダスにぶつけようと思う。そしたら――どうなると思う?」
「何で俺!? ……まあ、そんなの簡単だな! 俺の魔法障壁の方が魔力量が高いから、"当たった瞬間に《火球》が掻き消される"、 だよな!?」
腕を組み、自信満々にそう言うルダス。……こいつ、本当にさっきまでの話聞いてたのか?
「……じゃあ、今からこれを、ルダス――じゃなくて、外のグラウンドに投げつける。ちゃんと見とけよ」
俺は窓を開け、グラウンドに誰もいないことを確認した後――ぽーんと、《火球》を投げ捨てる。すると――
ドゴォォォォォォォォォォォォン!!!!
と言う猛烈な爆音と同時に、グラウンド内に爆発と砂煙が起こり――
「な……ななななな……ッッ!」
――煙が晴れたころには、巨大なクレーターが出来上がっていた。
生徒たちはその光景を見て、目を点にして驚く。
「――このように、"初級魔法だから弱い"というのは間違いだ。初級魔法でも、魔力量が高ければ相応の威力になる」
「……で、でも! 初級魔法はそんなに魔力を注げないじゃんよ!? 入れすぎたら魔力が霧散して行使できないし――」
「……だから、それが魔法詠唱に囚われてるってことだ。固定観念は全部捨てたほうがいい」
例えるなら、詠唱は料理のレシピのようなもの。
手順通りに作っていけば、ある程度の威力は確約される。しかし――そこから応用するとなると、「この魔法はこのくらいの威力しか出ない」という固定観念に邪魔されてしまう。
すると、正しい魔法のイメージが出来なくなり……結果的に、魔力が霧散してしまう。教科書通りに教えられた生徒が陥りやすい罠だろう。
俺は独学で学んで、試行錯誤しながらだったから……この罠に陥らなくて済んだ。ほんと、あの頃はめちゃくちゃ必死に学んでた。
どうしても学びたい魔法があった時は、立ち入り禁止の魔導図書館に侵入して……警備の目をかいくぐりながら、朝まで必死に読みまくってたりした。
結局バレて捕まり、館長である変な女の下働きと言う名の、身の周りの世話をさせられたが……まあ、魔法は覚えられたので結果オーライである。最終的には逃げたし。
「――基本的には、階級が上の魔法の方が強いのは間違いない。魔法の相性とか同質の魔法同士の計算式とか、強力すぎる魔法には制約をかける必要があるとか……全部話すと長くなるし、めんどくさいから説明はしない。適当に本でも読んで勉強してくれ。……っと、もう時間だな」
ちょうど授業終了のチャイムが鳴ったので、それだけ言い、教室から出ようとする。……あー疲れた。早く帰ってシャルの旨いご飯を食べて寝よう。
「ちょ、ちょっと待ってよせんせー!」
が、少し焦った様子の化粧ケバ少女、セーノが呼び止めてきた。
「……なんだ。質問は受け付けてないぞ」
「いや質問じゃなくて…………あれ、どうするの?」
セーノは教室の外――グラウンドを指さし、そう言った。――ぽっかりと大きな穴が空き、多くの講師や生徒が騒いでいる、グラウンドを。
「………………どうしよう」
慌ただしく動き回っている講師たちを見て、冷や汗が流れる。
やばい、適当にグラウンドに放ったけど、あとの事なんも考えてなかった。なんか凄い騒ぎになってるし……どうしようこれ。
……ま、まあ後で綺麗に戻しておけばセーフだと思う。うん、セーフのはず。アウトよりのセーフに違いない。
その後――厳重警戒態勢に入った講師たちの目を掻い潜り、バレないように綺麗に直しておいた。
翌日、学園の広報誌に『魔人襲来!? 消えたクレーターの謎』という一面がでかでかと載って――
――その日から数日、学園の範囲結界レベルが数段上がったのは、もはや言うまでもない。