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1話 出場券

「やっぱりシャルの料理は最高だぜ!」


 その後――シャルの作ったシンプルだけどめちゃくちゃ旨い飯を堪能し、でかいソファに座ってぼーっとしていると……シャルが隣に座り、体を寄せてきた。


 「このソファでかいんだからそんな近づく必要なくね?」と思ったが、言わない。機嫌をそこねて追い出されたくないから。


 俺は、寄り添うように座ってきたシャルのさらさらとした髪に手を置き、優しく撫で始める。


 昔からシャルはこうされるのが好きで、「お姉さんなのにいいのか?」と言ったら「お姉さんだけどこれはいいの!」と反論してくるほどだ。


 案の定、シャルは気持ちのよさそうな顔で「えへへ……」と幸せそうにしている。かわいい。


「……なんか私たち、新婚さんみたいだね?」


 撫でていたら、シャルが上目遣いで、なぜかそんなことを言ってきた。


 俺は何も言わずに口角を上げ、笑う。


 本当、シャルは昔からよく甘えてきて……俺に妹がいたらこんな感じなんだろうなって思う。


 それに、そんなことを言ったら相手が勘違いするだろうに……その点、俺は絶対に勘違いなどしないから安心だ。シャルのことは妹のように思っているからな。


「――あ! そういえば……ジレイくんって、魔導具好きだったよね!」


 五分ほど無心で撫で続けていると、シャルが何かを思い出したように、そう言った。


 俺が「好きだけど……?」と答えると、シャルはポケットから何かを取り出し、「じゃじゃーん!」と俺の前に取り出す。


「……券?」


 それは、何かの券のような、長方形の一枚の紙。


「うん! 魔導大会の出場券だよ! 賞品が魔導具だったから、ジレイくんが喜ぶかなって!」


 ニコニコと、長方形の紙――出場券を渡してくるシャル。


 見てみると、確かに"第87回 マギコスマイア魔導大会出場券"と書かれている。でもおかしい、だってこの大会は――


「一般参加は、出来なかったはずなんだが……そもそも俺、条件満たしてないぞ?」



 "マギコスマイア魔導大会"は、数年に一度、マギコスマイアの王族が主催する、昔から行われているイベントの一つだ。


 "魔導"大会と銘うってあるが、実際は、剣も呪術も、ルールの範囲内なら何でもありというなかなかカオスな大会。


 しかし、王族が主催するだけあって、上位に入賞すると豪華な賞品と、多額の賞金が与えられる。


 ある時はS級モンスターの素材だったり、またある時は、伝説の鍛冶師が打った刀剣だったりする。


 賞品は、その大会で主催する王族が誰かによって、変わってくるらしい。何にせよ、豪華なのは間違いない。


 となるともちろん……参加したいという者は大量に出てくるというもの。


 大会管理側も、さすがに多すぎる参加希望者を選別するのには、時間が掛かると判断したのか――こんな条件を、参加者に掲示した。



―――――――――――――――――――――――


①指定された組織、機関、団体に所属していて、推薦を貰った人物


②冒険者ランクA以上


③何らかの武術で免許皆伝

(A級冒険者相当の実力があると認められた者のみ)


④魔術機関の、魔法力A判定以上の認定証明書

 

―――――――――――――――――――――――



 もちろん、俺はどの条件も満たしていない。だから、俺が出場できるのはおかしい。おかしいのだが――



―――――――――――――――――――――――


【出場者名】ジレイ・ラーロ


【所属機関】王立マギコス魔導学園


【推薦者】 アルディ・アウダース学園長


―――――――――――――――――――――――



 出場券には、しっかりと俺の名前が書かれていた。


 それに、【所属機関】がなぜか魔導学園になっている。でも俺は、講師にも用務員になった覚えがまったくない。どういうことだこれ。


「しゃ、シャル? これ、一体どういう――」


 聞こうとすると、


「――――そこから先は……オレが説明するぜ」


 背後から、めちゃくちゃ渋いダンディな声。


 ぞわっと、身の毛がよだつ。この声、まさか――


 ばっと振り返り、


「――ジレイ、久しぶりだな」


 視界に映ったのは、野太い声の割に、妙に身長が低く、ちんまりとした人物。


 身長は10歳前後の小さな子供くらいで。


 ぴょこぴょこと動くふさふさの耳としっぽ。


 丸い瞳は、黒目の部分が大きくて、くりくりと愛らしく――まるで猫……というか、猫そのもの。

 

「うげぇ……」


 思わず顔をゆがめ、心底嫌な声を漏らす。


 だってこいつは、俺の「会いたくない人物ランキング」上位に食い込むほどの人物――


 妖精種――ケット・シーであり、王立マギコス魔導学園の現役学園長――アルディ・アウダースだったのだから。

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