13話 四天王《死喰のカーフェス》戦②
骸骨は叫んだあと、少しの間思案し、結論が出たのかこう言った。
「……ははァ、そういうことでスか、アナタさては……《重力魔法無効》の魔道具を装備していますね? それも、かなり高度な魔道具――《古代遺物》相当のものを……!」
「いや、持ってないけど」
俺がいま装備してる魔道具なんて……ポケットに入れてる財布型のお金収納魔道具くらいだ。
いやこれマジ便利。なんと落として無くしても所有者の元に戻ってくるのだ。
これのおかげで財布をスられても無問題。スろうとした奴の財布を報復としてスリ返して俺の懐も潤う。最高の魔道具である。
正直、《異空間収納》に入れればスリとか気にする必要はないんだが……それだと取り出すときにめちゃくちゃめんどくさいのである。
俺の《異空間収納》は整頓せずにいつも放り投げてるので、探すのにけっこう神経を使う。
だからよく使うやつはいつも身に着けているのだ。そもそも財布探すのに時間かけたくないし。
あと一応、《重力魔法無効》の魔道具も持ってるけど……《異空間収納》の肥やしになっているから使ってもいない。こいつは何を勘違いしているのだろう?
「フフフ……強がりはもういいですヨ。本当は全員、アンデッドにする予定でしたガ……アナタには無残に死んで貰うことにしましョウ――《深淵黒炎》」
骸骨はそう言って、手のひらから黒い炎を作りだし、こちらにゆっくりとした速度で射出する。何の魔法か分かんないけどなんか弱そう。
「なんだこれ? こんなの――」
俺はふよふよと遅く飛んでくる黒炎を見て、あんまりにも弱そうなので手で叩き落とそうとした。だが――。
「――ッ! 駄目だジレイ! 避けろ!!」
倒れ伏していたウェッドが何かに気づいたように叫ぶ。……え? 避けろって、もう目の前なんだけど。
叩き落とそうとするポーズのまま固まる。そして、黒炎が眼前に迫ってきて――。
――触れた瞬間、黒炎が膨張し、俺の体を勢いよく包み込んだ。
「……ジ、ジレイ……? ジレイィィィッッ!!!」
¶
「なに? うるさいんだが」
ウェッドは、戦友を目の前で殺された男みたいなリアクションで叫び、あまりにもうるさかったので、俺は注意する。
ウェッドは信じられないものでも見るようにこっちを凝視した。他のみんなも同じ顔してた。
「……ぇ? いやお前それ……え?」
俺は自分の身体を包んでいる黒い炎をちらりと見て、ウェッドが何を言いたいのかを理解する。
「大丈夫だ。俺、龍のブレスにも耐えたことあるから」
「龍……? はぁ? いや、そもそもお前生きてるのか? その状態で??」
「普通に生きてるけど」
「ぇえ……?」
ウェッドは意味が分からないとでも言いたげな顔。
「てかさっきからよく見えなくて邪魔ッ!」
俺は黒炎を掴んで身体からはがし、地面に叩き落とす。……よし、これでよく見えるようになった。
そもそも、今の時期はこんなん纏ってたら暑くて仕方がない。ちょっと汗かいてきたじゃないかどうしてくれる!
「あ……ありえないでス! わたし……ワタクシの《深淵黒炎》が、掻き消されるなどッッ!! ア、アナタ他にも無効にする魔道具を付けていますネ!? そうでしょう!??」
「だから、付けてないって」
しつこいなコイツ。
というか、俺のどこ見てもそんなもん付けてないって分かるだろ普通。それに、お前の方が指輪型の魔道具とかネックレス付けてるじゃん。めちゃくちゃドーピングしてるし魔道競技だったら一発アウトで退場もんだからなそれ。
「そ、それナら他の属性魔法を使うまで! 《禍患龍水》! 《業命棺岩》!! 《死滅暴風》!!!」
骸骨は次々と魔法を撃ちだしてくる。
俺は《禍患龍水》を手で叩き落とし、《業命棺岩》を足で天高くまで飛ばし、《死滅暴風》を吐息で相殺させた。
その後もいろいろな種類の魔法を打ち出してきたが、その全てを小指とかデコピンとかで難なく相殺させる。あれ、なんか思ったより弱い。
「ハァ……ハァ……な、なにコイツ…………し、仕方ありませン。これだけは使いたくなかったですガ……」
骸骨は信じられないようにこちらを見て驚愕し、肩で息をしながら、次の魔法の詠唱を始めた。どうやら奥の手があるようだ。ちょっとワクワクする。
「――深淵に宿りシ闇霊よ。死生を司ル輪廻よ。魔の王に仕えシ死の選定者"ユーリ・ヴァストールク・カーフェス"が命じまス――」
骸骨の足元に魔法陣が展開され、一節、二節、三節と詠唱が完了していく。
まだ行使していないにも関わらず、風が吹き荒れ、鳥が飛び去り、絶大な魔力に当てられて肌がひりひりと痺れる。
「――生者にハ絶対的な死ヲ。死者にハ永遠の苦しみヲ。愚かナル弱者にハ――虚無と終焉ヲ。――《滅月災厄》」
そしてついに、詠唱を終えた。帝級魔法に必要な六節よりも多い――七節、神級魔法を。
俺は想像以上の魔力の奔流に身構える。だが――
「…………あれ?」
少し経っても、何も起こらなかった。思わずキョロキョロと周りを見渡し、変化が無いか確認する。
でも何も変わった様子はなく、行使前と同じだった。……なんだろう、ただのこけおどし?
俺が「もしかして舐めプしてんのコイツ?」と思っていると、
「……ぁ……ぁあ……」
誰かが、微かに声を漏らした。
振り返り、ウェッドたちを見る。ウェッド達が見ている方向は俺でも骸骨でもなく――上空。
俺も上空を見上げる。そこには――
――黒々とした闇の炎球が、視界を埋め尽くしていた。