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12話 四天王《死喰のカーフェス》戦①

「ククク……愚かな人間共ヨ。ワタクシ――"魔王軍四天王"の一人、"死喰のカーフェス"が、永遠の眠りに誘ってあげまショウ――」


 高そうな宝石付きの装飾品を何個も装備した趣味が悪い骸骨は、そう言って俺たちにカタカタと骨を揺らす。


「――――え?」


 ラフィネたちは急に目の前に現れた骸骨に混乱し、理解が追い付いていないのか、唖然とした表情を浮かべた。


「ど、どうして!? 《千里眼》には何の反応も無かったはず……!?」


 ラフィネは目を揺らし、信じられないと言いたげな顔で骸骨を見る。


「フフフ、実に哀れでス……あの程度で私を見つけられると思うナド……全然見つけて貰えないノデ思わず出てきてしまいましタヨ……!」


「くッ……!」


 ラフィネは悔しそうに歯噛みし、地面を蹴って骸骨と距離を取って、護身用のレイピアを抜く。冒険者とレティたちも一瞬で骸骨から離れて剣を構え、対峙する形になった。


 緊迫した状況。なのだが……さっきの骸骨の一部始終を覗き見してしまったので、俺にはコントのようにしか見えなかった。なんか気まずい。


「これでも喰らいやがれ! 《空刃斬》!!」


 俺が微妙な気持ちになっていると、先手必勝と思ったのか冒険者の一人が飛び出した。そして、風魔法と剣術を組み合わせた剣技――《空刃斬》を骸骨に向けて発生させる。


 なかなかの練度の《空刃斬》。

 達人は風魔法の補助無しでも行えるのでそういう意味では遠く及ばないが、発生速度と威力はなかなかのもの。


 男の放った渾身の《空刃斬》は骸骨の胴体に向けて勢いよく飛んでいく。だが――。


「……効きませんネェ。その剣、おもちゃですカァ?」


 《空刃斬》は骸骨の身体に張られていた防護結界によってキンッ! と弾かれてしまった。男はその光景に信じられず目を剥く。


 骸骨はそれを一瞥してカタカタと不気味に笑い、


「効きませんガ…………アナタみたいな方、嫌いなんですよネェ」


「……はぁ? 別にそんなのどうでも――」


 男がそう言い終わる前、骸骨はその骨しかない細い腕を男の方向へ向けて、





 ドンッ、





 と鈍い音が響いた。


「――ぇ」


 男は自分の身体をゆっくりと見て、掠れた声を漏らす。

 そして――ドサッと地面に崩れ落ちた。胴体にぽっかりと大きな穴を開け、地面に血溜まりを作りながら。


「下等な人間如きが、高貴なワタクシに歯向かわないでくれますカァ?」


 骸骨はニタリと顔を歪ませ、見下しながらカカカと愉悦に笑った……。




「……か、《回復魔法》を! 早く!」


 男がふらりと地面に倒れる瞬間を、ただ茫然と見ていたラフィネたちは、ようやく事態を飲み込めたのか切迫した声色で叫んだ。


「――《上位治癒(ハイヒール)》」


 ラフィネが叫ぶより数瞬、早く動いていたイヴが、白魔導士の上級魔法を使って男を癒す。


 イヴの素早い対応のお陰か、男の胴体に空いていた大穴がみるみるうちに塞がっていった。おそらく、あと数秒遅ければ、男は絶命していただろう。


 しかし、倒れた男が危ない状態なのは変わらない。 一次的に応急処置として穴を塞ぎ、仮の臓器を生成したみたいだが、本来なら白魔導士数人が集中して治療しなければならない状態だ。すぐに治療院に運ぶ必要がある。だが――。


「さテ……これで、自分タチの立場が分かりましたカ?」


 この骸骨がいる限り、それは不可能だった。


 俺はちらりと倒れた男を見て、どのくらい保つかを特殊魔法の《高速演算》で計算する。……死亡推定時刻まで残り12分42秒ほど。イヴの延命治療込みなら……25分12秒か。それなら――余裕でいける。


 俺は、聖魔導士の帝級魔法《不死消却(デリートアンデッド)》を行使することにした。対アンデッド最強魔法だし、これならあいつを強制浄化できるはずだ。


「《不死消――》」


 俺が骸骨の方向へ手のひらを向け、行使しようとすると、


「私が相手だ悪いやつめ! この聖剣グラ……ぐら? ぐらるべるど? なんか違うよーな……まあとにかくこの剣でお前をめっためたにする! 覚悟しろ!!」


 レティがずずいっと俺の前に出てきて骸骨に聖剣の剣先を向け、そう宣言した。


「あっ………………マジか」


 途中で中断されたので、《不死消却》に使用していた魔力が霧散する。


 いやお前……。なんてタイミングで出てくんだよ。空気読めないにも程があるだろ。《不死消却》は制約で一日一回しか使えないのに……もう今日使えないじゃん。どうすんのこれ。


 てか聖剣の名前忘れんなや。それ剣だけどちゃんと意思あるんだからな。


 レティは宣言した後に、なぜかこちらを振り向き、ムフーっとどや顔で見てきた。なんでどや顔なんだコイツ。お前邪魔しただけなんだけど?


「ほう、聖剣…………聖剣? それにしては随分としなびてまスガ……まあいいでしョウ。ということはアナタは今代の勇者の一人なんですネ?」


「そうだ! そしてこっちが私の師匠! お前の100億倍くらい強い人だ!!」


「100億倍? ククッ……面白い冗談デス」


 骸骨はレティの言葉に骨をカタカタと震わせて笑う。


 そして俺をちらりと一瞥して、「こんな濁った眼の男ガ強い訳ないでしョウ?」と肩を竦めた。なにこいつむかつく。


 ……てか魔族から見ても眼が死んでるように見えんの? お前の方が眼球ないし骨だしで文字通り死んでると思うんですけど? オォン??


「ククク……では、お遊びはこのくらいにしましょうカネ――時間稼ぎしている人が、いるようですシ」


 骸骨はラフィネたちの方へ顔を向け、そう言った。時間稼ぎ? 何のことだ?


 骸骨の視線の先は、こちらを警戒しながらも、倒れた男に治療を施しているイヴ――ではなく、その横にいた――リーナに向いていた。


「アナタ……さっきから気付かれないように魔力を練っているでしョウ? ワタシには分かるんデスヨォ?」


「――ッ!? ……気のせい、じゃない?」


 リーナは一瞬だけ驚いた表情を見せてすぐに戻し、気丈に骸骨を睨んだ。どうやら何かやってたらしい。全然気が付かなかったわ。


「それに……早く『魔王様』に報告しなきゃならないのデ。アナタたちと遊んでいる暇なんてないんですヨ」


 カタカタと骨を鳴らし、そう言う骸骨。


「――魔王様が言っていた『黒髪勇者』も始末できましたシ、"欲しいと言っていたモノ"も街ごと手に入れまシタ……アア、魔王様、喜んでクレルでしょうネェ……! ホメてくれるでしょうネェ……!!」


 骸骨は恍惚そうに両手を掲げ、興奮したように声を荒げる。なんかハァハァしててめっちゃきもい。というか『黒髪勇者』って――。


 カランッ。


 と剣が落ちたような金属音が鳴った。


「…………ぇ?」


 持っていた剣を取り落としたラフィネが、聞こえないくらいの微かな声で、茫然と呟く。


「う……嘘。ですよね……? あの人が死ぬわけが――」


「なんでワタシが人間如きに嘘をつくんデス? ほら――あそこにいるでショウ?」


 目を動揺に揺らしながら、縋りつくように聞くラフィネに骸骨はそう言って、エタール内の喫茶店、オープンテラスの奥の方に座っている一人のゾンビを指差した。俺と同じ――黒髪のゾンビを。


「実に弱かったでスネェ……勇者の癖に聖剣の加護が脆弱で……羽虫かと思いましタヨ……!」


 骸骨は邪悪に顔をゆがませ、嘲笑う。


 それを聞いたラフィネは、絶望したうつろな顔で、支えを失ったかのようにガクンと地面に膝をついた。


「………………う、嘘です。そんなの嘘。嘘に決まってます。あの人は私のヒーローで……運命の人で……あの人が死ぬなんてこと……!」


「おやァ? アレ、アナタの恋人だったんですカ? それは申し訳ない事をしましたねェ……まあ、アレが弱すぎるのがいけないんですよオ?」


「……………………そん、な……」


「ラフィネ様ッ! お気を確かに持って下さい! 所詮魔物の戯言です!!」


 糸が切れた人形のように反応が無くなったラフィネを、シオンが正気に戻そうと声をかけ続ける。


 しかし、ラフィネの瞳に光が戻ることはなく、魂が抜けたようにうつろになっていた。


「少し時間が取られてしまいましたネ……そろそろ、終わりにしましょウ。まずは――《超過重力(ペサードグラヴィティ)》」


 骸骨は《重力魔法》の帝級魔法、《超過重力(ペサードグラヴィティ)》を詠唱する。


「グッ……!? な、んだこれ。体が、重く……!!」


 詠唱と同時に、周囲の重力が何倍にも高くなる。ウェッドやレティ、イヴにリーナ……というか俺以外みんな、地面に倒れ、縫い付けられていた。


「クク……これでアナタたちはもう逃げられませンねェ」


 この重力魔法。おそらく、肩に掛かる重みからみるに……たぶん10倍くらいだろう。ちょっと肩が重い気がする。


「ん……? なんでアナタ倒れてないんデス? かけ忘れですかネ? ――《超過重力(ペサードグラヴィティ)》」


 骸骨は俺だけを対象に、もう一度重力魔法を使う。


 俺の肩にさらに+10倍の重力がかかった。

 合わせて20倍。でもまあ……このくらいなら、まだぜんぜん動けるレベル。


 むしろ、ここ最近の肩こりがちょうどよく解されて気持ちいい。もっとやって欲しいぐらいだ。


 骸骨は「また掛け忘れ……?」と重力魔法を使う。

 しかし、俺はまったく倒れない、肩こりがとれて心地いい気分。


 骸骨は不思議そうに、何度も何度も《超過重力(ペサードグラヴィティ)》をかける。


 どんどんと肩の重みが増していって――ついには、350倍くらいになった。なんかもうここまで来たらどこまでいけるのか試したくなってきた。


 俺がそのまま掛けられ続け、たぶん1000倍を超えたくらいで、骸骨がゼェゼェと息を切らしながら、


「な、なんでッ! 効かないんデスカッッ!!」


 と言った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 1000倍の重力かかってたら、数十トンで一体どの辺りまで地面にめり込むのだろう…… 抜け出そうと力込めたら更に沈み込む上に、足場のふんばり効かずに中々脱出できなそう
[気になる点] 10倍を10倍したら100倍じゃないですか?
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