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11話 フィナの正体

「……これだけの数をアンデッドにするには、術者が必要。なら、その術者を倒せばいい」


 作戦会議が始まり少し話し合った後、イヴがそう提案した。さすがは白魔術師といったところか、死霊関係には詳しいようだ。


「でも、どうやって見つける? 街の中を探し回るにも、うじゃうじゃとアンデッド共がいて動けねえよ」


 ウェッドがアンデッドたちを見てそう言った。


「……私に、考えがあります。私の《千里眼》を使って――」


「ラフィ――フィナ様! それは……!!」


 護衛の仮面女がフィナを止めようとする。


 しかしフィナはそれを手で制して、


「私――ラフィネ・オディウム・レフィナードが探知魔法《千里眼》を使って、術者を探し出します」


 と宣言し、左手の人差し指に付けている指輪――《変幻の指輪》を外した。


 「――ッ!?」


 フィナの姿がぐにゃりと揺れ、その姿形を見た俺たちは、思わず息をのむ。


 艶やかな黒髪は新雪のように白く、美しい白髪に。


 元々整っていた外見は、少し幼さを残した顔立ちになりつつも、さらに可憐に、美しくなった。


 俺たちが驚いたのも仕方がないと言える。まるで――絵画から飛び出してきた天使のような、絶世の美少女だったから。



 フィナ――改め、ラフィネが正体を明かした後も、しばらくの間、誰も声を発しなかった。冒険者たちはあまりの驚きにポカーンと口を開け、間抜け面をさらしている始末だ。


 俺も驚いた。その容姿もそうだが、なんたってその名前は――


「王女様、だったのね」


 リーナが鋭い視線をラフィネに向ける。


「はい。正体を明かしたくはありませんでしたが……この状況ですので」


 『ラフィネ・オディウム・レフィナード』


 ユニウェルシア王国第四王女で、最も市民に支持されている王族。


 それもその筈で、儚く可憐な美しい容姿に《探知魔法》の最上位である《千里眼》を唯一、王国で使えるという才知。その上、国民にも親し気に接してくれるとなれば……もうアイドルのような扱いだった。俺が知っているのだけでもファンクラブが五つもある。人気すぎだろ。


 しかし――そんなラフィネも、ユニウェルシア王国の王女である以上。いつかは名だたる貴族か、魔王を倒した勇者のどちらかと結婚しなければならない。


 ファンクラブの会員たちは嘆いた。それはもう嘆き叫んだ。


 どこの馬の骨とも分からないやつが、愛しの王女様と結婚するかもしれないのだ。そんなの許せるわけがない。……まあ、一部の変態は逆に興奮していたりしたのだが。それらの豚はすべて会員に粛清されたから今はいない。南無!


 会員たちの行き場のない怒りが溜まりに溜まっていき、そしてついに、暴動が起きた。


 あのときはたしか……6年前。

 俺は修行時代真っ盛りだったので実際に顔を見ていないのだが、「幼女に興奮するとかこいつらやばくね」と当時の俺は思っていた。

 だが成長した今、色んな趣味の人がいると知ったので、それも一つの愛の形だと思っている。ラブアンドピース!


 暴動が激化し始め、どうにかせねばと王国は考えた。そして、幾つものファンクラブ(男女比8:2)を束ねる男――ユニウェルシア王国の王様である、ピラール・オディウム・レフィナードは会員たちを集め、こう言った。


「そこまで言うなら、勇者や貴族になればいいだろう」


 と。


 風の噂では、ピラールは超親バカでラフィネを溺愛しており、誰にも、それこそ魔王を倒した勇者にも渡さないと言っているらしいが……ファンクラブ会員たちはただの噂だろうと一蹴していた。


 そこから、ラフィネと結婚したい変態たちは武や商で成り上がろうとした。


 ユニウェルシア王国の戦力や流通がここ数年で急速に発展したのは、間違いなくこれのせいと言えるだろう。なんかもう、色々とついていけない。たぶんこいつらバカだと思う。


 しかし……結婚したやつは苦労するだろうなぁ。もしかしたらファンクラブに命を狙われたりして……? ま、俺には関係ない話だが。


「ラフィネ様! 自分が何をしているのか分かっているのですか! 狙われてるかも知れないのに、こんな所で正体を明かすなど――」


「シオン。『黙りなさい』」


 ラフィネは《言霊魔法》を行使した。仮面の女――シオンは強制的に口を結び、声を出すことを封じられる。


「この状況でそんなことを考えても仕方がないでしょう。それに……姉様達も、私たちがエタールにいることは知らないはず。何の問題もありません」


 ラフィネがそう言うも、シオンはまだ何かを言いたそうに口をモゴモゴさせていた。が、封じられているので声を出せないようだ。


  ……そういえば、風の噂でラフィネをよく思っていない王女がいるとかなんとか聞いたことがある。なんでも、暗殺するために凄腕の暗殺者を雇っているらしい。まあ噂は噂だ。もしいたとしてもこんな所にいるわけがない。


「それで――私の《千里眼》を使って術者を探したいのですが……どうでしょう?」


「え、ええ。いいんじゃないかしら」


 リーナは少し動揺したように、声を揺らす。……ん? なんかちょっと、リーナの纏う雰囲気が変わった気がする。気のせいか?


「では……始めます。――大気に満ちる精霊よ、"ユニウェルシア王国第四王女"ラフィネ・オディウム・レフィナードが命じます。私に万里を見通す神の瞳を与えなさい――《千里眼》」


 フィナは地面に膝を下ろし、両手を胸の前で組んで詠唱を行う。


「これは……すごいな」


 フィナの周りをキラキラと光り、輝く魔力の奔流を見て、俺は思わず感嘆の声を漏らした。


 本来はもっと長いはずの《千里眼》の詠唱を省略できる才覚もそうだが、それよりも濃密で繊細な魔力を完璧にコントロールしているのが人間技じゃない。


 あふれ出す魔力の質も高く、量も尋常じゃないほどに多い。Sランクの魔導士に匹敵する魔力量だ。


 そして、《千里眼》は《探知魔法》の最上位魔法なだけあって、その効果は凄まじいの一言。


 どんなに遠くても、魔力の残留を辿り場所を特定できるし、残留魔力が無くても、顔か名前、身長や髪型、体形や剣の流派など。様々な条件を指定し、当てはまる人物を探し出すことが出来る。


 ちなみに、コップなどの無機物やモンスターにもできる。これさえあればなにかなくし物しても一発で分かるからめっちゃ便利だと思う。


 弱点としては……高度の妨害魔法や偽装魔法に弱いという点。そして、対象の魔力量が自分の魔力の十倍以上だと、探知できない事か。


 あと、あまりにも魔力の密度が高い空間にいると探せない。

 まあ、そんなのはここからずっと北にある未踏破区域――ラススヴェート大陸くらいだろう。

 S級指定のドラゴンとかがうじゃうじゃいる大陸で、魔王がいるんじゃないかって噂されてる魔大陸でもある。

 前に行ったことあるけど魔物が多いし強いしで死ぬかと思った。当時の俺は嬉々として狩りまくってたけど、今となってはもう二度と行きたくない。


 実は、俺も前に《千里眼》を習得しようとしたのだが……なんか難しそうなことがいっぱい書いてあったので止めてしまった。俺は体で覚えるタイプなのだ。


 おまけに《千里眼》は術者もほぼいない。なので、見て学ぼうにも機会がない。しぶしぶ諦めざるを得なかった。


「――――ん?」


 そこまで考えて、あることに気づく。


「もしかして……ラフィネの真似すれば、使えるんじゃね?」







 ラフィネが集中して《千里眼》を行使し、周りが緊迫した様子で見守る中、俺はできるか試してみることにした。


 えっと、こんな感じの姿勢とポーズで、魔力はこのくらい。詠唱は……しなくていいか。昔はちゃんと一節ずつ、頑張って覚えて綴ってたんだが、体で覚えて実戦しまくったほうが上達したので使わなくなったのだ。それにめんどくさかったのもある。なんか詠唱してもしなくても威力変わらないし、たぶん大丈夫だろう。


「――《千里眼》」


 それっぽく魔力を作り、エタール内の魔力の残留から、術者を探すべく集中する。すると――


「……後ろ?」


 なんとなく、後ろに術者を感じた。通常の《魔力探知》もしてみたが、俺たち以外に反応はない。


 俺は「まさかね……」と振り返る。


「――!?」


 視界に入ってきたのは、森の風景とはかなり場違いな豪華な腰掛けにどっしりと座る、半透明の偉そうな骸骨の姿。ただのスケルトンではなく、その身体からは膨大な魔力が溢れ、相貌からは風格のようなものが漂っていた。


 骸骨は頬に手を付き、こちらを笑うように、カタカタと頭蓋骨を揺らして観察していた。なにこいつキモい。


 少し透明なのは、高度な偽装魔法を使っているからだろう。さっきまで気づかなかったのは……それが原因か。


 周りを見渡す……他のみんなは気づいていないようだ。


 ラフィネの《千里眼》に引っかからないのも、こいつの魔力量が高すぎるということだろうか。Sランク相当の魔力量を持つラフィネの10倍以上となると――SSランクにも匹敵する。でもそれだと、伝説級の魔物ということになってしまう。


「…………やっぱりこっちから行こうかな」


 俺が横目でチラチラと警戒していると、骸骨は腰掛けからのっそりと立ち上がり、ぼそりと呟く。


 《千里眼》の行使で集中しているラフィネたちの前に移動し、一度大きく深呼吸をして、


「ククク……愚かな人間共ヨ。ワタクシ――"魔王軍四天王"の一人、"死喰のカーフェス"が、永遠の眠りに誘ってあげまショウ――」


 自分にかけていた偽装魔法を解き、膨大な魔力を開放したあと、大仰に手を広げて自身の存在を露わにした。


 俺はそれを見て、こう思った。


 ――あ、コイツ、バカだわ。


 と。






 

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