第74話「ジン」⑪
次の瞬間、振り向きざまに斬りかかるご主人様。鋭い切っ先がルイに届くその刹那、激しい雷が巻き起こり、直撃を受けたご主人様は部屋の窓の鎧戸を突き破り、外まで吹き飛ばされてしまいました。
「ぷっ、奇襲を仕掛けておいて返り討ちとは、無様だな」
なんとか立ち上がるご主人様ですが、マントやサーコートは黒く焦げ、小さく火が燻っています。
「神に祈ったらどうだ?本当にテンプル騎士団が神の為に戦っているのなら、助けてくれるはずだろ?」
嘲笑するようにニヤニヤと笑いながら、戸外に出てくるルイ。ご主人様のあの攻撃に反応できるなんて、まさかここまでの使い手とは……
「けっ、どこまでも甘ちゃんだな。自分が助けてもらう事しか考えてないんだからな」
「なに?」
燻った火を払って消しながら、ご主人様が言います。
「お前は神を信じていないのか。道理で物事の道理を全く理解できていないわけだ」
「何が道理だ!結局は金と領地のためだろ?いい加減に自分達は単なる人殺しの集団だと認めろ!」
それを聞き、目を閉じるご主人様。そして、大きく息を吐き、答えるのでした。
「そうだ。俺達は、騎士ってのは人殺しで、残虐で勇敢な暴力集団でありながら、暴力を否定する宗教の敬虔な信者であるという矛盾した存在だ。お前は俺達が、多くの者が途中で命を落とす遥か遠くのこの地まで、立場を捨て、財産を捨ててまで本当に単に土地や財産の為に来てると思っているのか?」
「ふんっ、違うのか?まさか魂の救済のためだとか言わないよな?」
「なんだ、分かってるじゃないか」
「笑わせるな!魂の救済なんてあやふやな事を語る貴様らの神は偽物だ!俺は本当の神に出会い、それをやめさせるためにここに来たんだからな!」
「本当の神?」
「元の世界では毎日が平凡、退屈の極みに達していた俺は、ある日事故であっけなく死んだ。そこで出会ったんだ、本当の神にな。神は俺に、自らの名を騙り好き勝手する者を懲らしめてくれと、俺に力をくれた。折角貰った力だ、俺は貴様らの偽りの神に代わり、この世界に正義と秩序をもたらす事にしたんだ」
それを聞き、深くため息を吐くご主人様。手で目を覆い、まさに目も当てられないと言う感じのポーズです。
「お前はアホか……」
「アホは未だ何もしない神なんて信じてるお前らだろ!」
「お前が出会ったのは神じゃなくて悪魔だ。破壊と混沌をもたらす事が目的のな。全く、神は信じないとか言っておいて、目の前に利益を吊り下げられるとすぐに飛びつくんだから世話無いぜ」
悪魔、それは甘い言葉で人々を誘い、力を与え、そして悪徳を振りまき、人々の魂の堕落を狙う存在。確かに、言葉巧みにホイホイと強大な力を人に与える存在など、それはきっと悪魔なのでしょう。




