第73話「ジン」⑩
夜を徹して馬を走らせ、ガリラヤ地方の例の村に到着した時にはもう明け方、空は寒々とした曇り空になっていました。村内を捜索している所、丁度顔を洗いに外に出てきた村人をつかまえ話を聞いたところ、2人は村の有力者の家に滞在しているとの事。早速その家に行き、剣を抜いて扉を蹴破り部屋に入ったところ、ついに見つけました。ベットで眠るシャルロット様を。どうやらルイは出ているらしく、ベッドのもう片側は空になっていました。
「全く……手間かけさせやがって。それにしても男女で一つ屋根の下、同じベットにご滞在とは、聖ヨハネ騎士団に知られたらシャルロットもタダでは済まないぞ」
そんな事をボヤきながら、薄着でベットに横たわり、気持ち良さそうに眠るシャルロット様の横顔をペチペチ叩くご主人様。
「助けにきたぞお転婆。2人であの世間知らずを倒すんだ」
「う〜んむにゃむにゃ……何よ、またなの?」
「起きろ!シャルロット!」
ご主人様に一喝され、ガバッと起きるシャルロット様。寝ぼけ眼で周囲を見回しますが、ご主人様を認めた途端、掛布で身体を隠しながら赤ら顔で騒ぎ始めました。
「なっ、一体ここで何をしているのよレード!」
「それはこっちのセリフだ。ルイは何処に行った?あの世間知らずを倒してさっさと帰るぞ」
それを聞き、ハッとしたような顔の後に、悲しそうな顔をするシャルロット様。
「ごめんなさいレード……もう帰れない。私は……あの人に何かされたようなの。逆らえないし、逃げられない」
あの強気なシャルロット様が、ここまで気弱になるとは。うっすら紫色が差すその瞳からも、どうやら未だ精神支配は続いているようです。
「しっかりしろシャルロット!気を強く持て!お前らしくないぞ!」
「うぅ……う……」
掛布に顔をうずめ、泣き始めてしまうシャルロット様。このような気弱なシャルロット様はもう見て入られません。
「こうなったら順序を逆にするしかないな、ルイ」
ゆっくりと立ち上がり、扉から丁度入ってきた元凶に背中越しに語りかけるご主人様。
「十字軍の真実を知ったシャルに、もう戻る気は無いよ。分かったらとっとと帰るんだな、拝金主義のテンプル騎士団所属の元カレさん」
「十字軍の真実だと?貴様に俺たちの何が分かる」
「神の為、聖戦だと騙り、その実この地に来たのは略奪と殺戮のため。それが十字軍の正体だ。僕の元いた世界では常識だよ」
「苦労知らずで能力頼りのボンボンには分からんか。まぁ、分かる必要も無いがな」
そう言うと、剣を握るご主人様の手に、より一層力が入るのでした。




