第72話「ジン」⑨
テンプル騎士団と聖ヨハネ騎士団が総力を挙げて捜索した結果、ルイという男の輪郭が朧気ながら見えてきました。彼が最初に目撃された村の住人によると、見慣れない服を身に付けていたルイは、ある日突然現れたそうです。そして村人にここがどこか、いつの時代かをしきりに聞き、そして大いに驚いていたとのこと。もちろん最初はそんな彼を村人は警戒していたそうですが、村に現れた野盗を彼が不思議な力で一掃してからはすっかり心を開いたのですが、彼は数日の滞在の後、"神を騙り、略奪と殺戮を繰り返す十字軍に終止符を打つ"と言い残して旅立って行ったそうです。
「結局あいつはどこの誰なのかは皆目分からん。分かった事は、十字軍を恨み、神を否定し、あちこちで破壊活動をしていると言う事だけだ」
「そして、厄介な事に雷撃を自在に操る力と精神支配の力を持っている事ですね、ご主人様。でも、本来奇跡を行うには強い信仰心が必要なはずですが、カケラも持ち合わせてないであろう彼が行えるのは何故でしょうか?」
「分からん。一つ考えられるとしたら、あれは奇跡でな無いと言う事だな」
「と言いますと?」
「信仰では無く、別の強大な何かを力の源泉にしてるって事だ。まぁ、何にしても正確な事は奴本人をしょっ引いて聞かないと分からんがな」
その後もルイの居場所を見つけ出すための聞き込み調査が続けられた結果、ガリラヤ湖周辺の村を脅かす大型の怪物を、雷と炎をそれぞれ操る男女が退治したと言う情報をついに掴んだのです!
「ご主人様、この男女と言うのは……」
「間違いない、ルイとシャルロットだ。雷や炎を操る人間がそうそういてたまるか。ガリラヤに滞在とは好都合だ!すぐに向かうぞ!」
「お待ち下さいご主人様!敵は強大な力を持つ以上、ここは応援を待つべきです!」
「そんな事していたら逃げられてしまうだろう!それにシャルロットが未だ操られている以上、応援なんて呼んだら共に始末されてしまうもしれない!」
「しかし……」
「なぁに心配するな。ガリラヤはかつての俺の庭みたいなものだ。余所者のルイに遅れをとったりしないさ」
それ以上私には何も言えませんでした。確かにテンプル騎士団にとって、聖ヨハネ騎士団の修道騎士であるシャルロット様は人質としての価値は無いでしょう。しかし、果たしてルイにご主人様は勝つ事は出来るのでしょうか。ガリラヤ湖周辺と言えば、かつてイエス様が多くの奇跡を起こした場所。今は再び奇跡が起こる事を祈るばかりです。
第一回十字軍にも参加したフーシェのシャルトルという聖職者の書いた歴史書によると、聖地の冬は西洋と同じかそれ以上に寒く厳しいものだそうです。
熱しやすく冷めやすい砂漠地帯はとにかく厳しい環境だったようです。




