第69話「ジン」⑥
ルイと名乗る者の襲撃により、聖ヨハネ騎士団とヴェネツィアの用意した護衛の兵士は大きな損害を被りましたが、残りの道中をテンプル騎士団が護衛することにより、無事一行はテュロスへと到着する事ができました。医療技術に長けた聖ヨハネ騎士団が同行していたため、あの激しい戦いであったにも関わらず被害が少なかったのは不幸中の幸いと言えます。
そして大きな損害も無く任務をやり遂げだテンプル騎士団はすっかり戦勝ムードです。しかし、当のご主人様は昼食に出た祝いのワインにも口をつけず、意気消沈甚だしいと言う感じです。シャルロット様が行方不明になってしまったのですから、当然と言えば当然なのでしょうが……
「ご主人様、それとなくシャルロット様について聞いたのですが、やはり未だ行方不明のままだそうです」
「そうか……」
「また、テンプル騎士団においても行方不明になったのは聖ヨハネ騎士団の修道士であることから、捜索等をする予定は今のところ無いそうです」
「そうか……」
「しかし、何故あの気の強さは火の如しのシャルロット様がああも簡単に攫われてしまったのでしょうか。それもまるで自分の意思かのように」
「分からん……」
あの心の無いご主人様が、落胆とは言えここまで感情を露わにするのはギルバート様を失った時以来でしょうか。もしかしたら、ご主人様の失った心を取り戻す鍵は、この辺りにあるのかもしれません。となれば何とかしてこの腑抜けたご主人様を奮起させ、シャルロット様を取り戻さなくては。
「しっかりして下さいご主人様!シャルロット様は死んだわけではありません!あのルイとか言う世間知らずから取り戻すのです!」
「そうは言うがな、俺はテンプル騎士団修道騎士なんだ。聖ヨハネ騎士団修道騎士のシャルロットは本来無関係。表立って動ける訳が無いだろう」
もはや諦めの顔まで見せるご主人様。サラセン人やアンカ、キマイラに追い詰められても余裕綽々だったご主人様は一体何処へ行ってしまったのでしょうか。
「無関係とは何ですか!幼い頃に稽古を付けてあげたことも、キマイラにグーラーを共に倒した事も、忘れてしまったのですか!」
「それは成り行きでそうなっただけだ。本来俺たちの間には何も無いはずだ」
むむむ……何という事でしょう。こうなれば致し方ありません。このテンプル騎士団修道騎士レード様付き楯持ちコーディス、心を鬼にしてでもご主人様を奮起させましょう。
当時、医療技術についてはフランク人よりもサラセン人の方が進んでいたようですが、聖ヨハネ騎士団の病院にはサラセン人も入院していたそうなので、聖ヨハネ騎士団の医療技術は西洋のそれよりも高かったようです。




