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怪物と十字軍と心臓の無い騎士  作者: カラサワ
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第61話「グーラー」⑩

 今もエルサレム近郊にある園の墓は、そこにある人の骸骨にも見える独特な形の岩から、こここそがイエス・キリストが磔刑に処され、葬られた場所と考える人もいるそうです。

 ジャン卿の館にご主人様とシャルロット様が踏み込んでから数日が経ちました。あれからジャン卿が食い殺されたと言う話は聞きませんが、やはりアンナさんはグーラーではなかったのでしょうか。それとも……


「ちょっとレード聴いてるの?例のアンナっていうアルメニア人だけど、ジャン卿の前から突然姿を消して、結婚まで考えていた彼は相当の落ち込みようだそうよ」


「え?あぁそうか。ジャン卿には悪い事をしたが、アンナはグーラーでは無かったのかもしれないな」


「まだそうと決まったわけじゃ無いって言ってたのはあなたじゃないの。身の危険を感じて姿をくらましたか、別の標的を見つけただけかもしれないわ。それで今日はどうする?また王宮で一から聞き込み調査でもする?」


「いや、すまんが今日はこれから情報提供者と会うので、これで失礼する」


「なら私も行くわ」


「なるべく少人数でという先方の要望なんでな。情報の内容は今度教える」


「1人増えても少人数には変わりないでしょ!あっちょっと、待て!」


 逃げるように走り去るご主人様。どうやらシャルロット様を巻けたようですが……


「ご主人様、本当にシャルロット様をお連れしなくて良かったのでしょうか。なんせお会いする相手は……」


「仕方あるまい。俺たちだけでと言うのが向こうの出した条件なんだからな。心配するな、俺が色香に惑わされると思うか」


「いえ……」


 いくらご主人様は心を失っており、感情が薄いと言えども完全に失っているわけでは無いですので、直接戦闘ならともかく精神的に迫られたら遅れを取らないとも言えないのです。


 市街地をダマスカス門から出て北に向かって歩くこと数分、そこには園の墓と呼ばれる墓地があります。緑豊かな公園にも見えるその墓地は、人のシャレコウベにも見える岩があるなんとも不気味な墓地です。そしてこの墓地の奥まった一角が情報提供者の指定場所。何故このような人目に付かない場所なのでしょうか、疑問です。


「あちらさんはもう来ているようだな」


 大きな木の陰に佇む、黒いヴェールで顔を覆う女性を見とめ、合図して近寄るご主人様。


「遅れてすまんな。火だるま騎士を巻くのに手間取った」


「いえ……」


 力無い言葉で答えるその女性、すなわち事件の情報提供者、アンナさんです。


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