第59話「グーラー」⑧
ご主人様とシャルロット様がジャン卿の館の前で張り込んでから小一時間経った頃、館を訪ねる者が現れました。黒いヴェールを身に付けているため顔はよく見えませんが、その白い服に浮き出た身体のラインから、どうやら若い女性のようです。
「おいでなすったようだな」
「そのようね。ここからじゃ顔はみえないけど、出迎える小姓の顔が少し紅潮してるあたり、美人のようね。それでどうする?一気に踏み込んで、方を付ける?」
「まぁまずは我々も館の中に入れて貰って、女から話を聞くとしよう」
小姓に出迎えられた女が館の中に入って行った後、ご主人様とシャルロット様も館の前まで行き、ノッカーを三度叩きました。すると扉は直ぐに開けられ、中から年の頃12〜14くらいの少年が出てきました。
「は〜い、何のごようでしょうか?」
「テンプル騎士団のレードだ。こちらは……たまたま一緒になった聖ヨハネ騎士団のシャルロット。この館の主人、ジャン卿と今一緒にいる女に用事があって来た」
「もうしわけありません。ジャン様は、いま大事な用事のさいちゅうでして、どなたもとりつぐことはできません」
「大事な用事ねぇ……主人のジャン卿のお命に関わる問題だ、なんとか取り次いでもらえないか」
「ですが……」
困った顔をする小姓の少年。主人の言いつけを破ったら、後で怒られるのはどこの主従でも同じなので、致し方ありません。と、その時でした!館の奥から、男の悲鳴とも驚きとも取れる声が聞こえてきたのは!
「ごっ、ご主人様!?いったいどうなされましたか!?」
小姓が慌てて奥に向かって声を掛けますが、返事は無く、その悲鳴とも驚きとも取れる声が響くばかりです。
「正体を現したようだな。行くぞシャルロット!」
「ええ!」
小姓を扉からどかし、剣を抜き館の奥へと向かうご主人様とシャルロット様。そして声が聞こえてくる奥の部屋の扉を勢いよく蹴り開けたのです!
「なっ、なんだ貴様らは!」
部屋の中には、ベッドの上に裸で横になる男と、その上に跨る女がおり、2人して驚いた顔でご主人様とシャルロット様を見ているのでした……
「やだもうちょっと!」
部屋の2人の状況を理解したのか、真っ赤にした顔を背け、剣を収めつつ部屋から出るシャルロット様。
「これはお取り込み中失礼した……テンプル騎士団のレードと言う。今は"人食い事件"の調査をしていて……」
「よく分からないが、話をするにも取り敢えず一旦部屋から出てくれないか。まず服を着たい」
頷きつつ、部屋から出るご主人様。今回の作戦、もしかしたらですが、失敗だったのかもしれません……
西洋から十字軍国家へと来たフランク人ですが、アルメニア人など現地キリスト教徒と結婚するのはよくある話でした。




