第56話「グーラー」⑤
シャルロット様が関係者から話を聞いている間、死体の検分をすることになったご主人様。犯人につながる手掛かりは見つかるのでしょうか。
「さてと……まず頭だが、身体に比べると外傷は少なく、顔も残っているため身元の確認も容易かっただろう。しかし喉元には大きな傷がある」
「鋭利な刃物で切られたのでしょうか。随分深くて大きな傷ですねご主人様」
「恐らくこれが致命傷になったんだな」
次に胴体へと移り、まじまじと覗き込むご主人様。
「腹部は大きく損なわれ、内臓も無い。こちらは刃物も使わず、そのまま食いついたようだ。周辺に血肉が飛び散っているあたり、この場で食い散らかしたか。胸の中まで食われてやがる」
そして手足へと移るのですが……まるで投げ捨てたかのように骨の何本かは床に転がっており、一目で異常さが見てとれます。
「手足も肉が食われてる。こちらも解体に刃物を使った訳では無いようだな」
「ご主人様、一体この死体に何が起こったのでしょうか?」
「これに似た死体は以前にも、と言うか街道警備をしていた頃はよく見たな」
「と言いますと?」
「グールに食われた死体とそっくりだ。奴らもライオンなんかの肉食動物と同じように、まず内臓、それから肉を食うんだが、手先が人間のように器用だからな、骨の周りもキレイに食いやがる。しかしあいつらは専ら死体専門だし、もし生きている人間を襲うにも刃物なんかを使うような知恵は無いはずだが」
都市のど真ん中にある館の、それも室内で見つかった死体が、道端に転がるグールに食われた死体と似ている。一体どう言う事なのでしょうか。ご主人様が考え込んでいると、話が終わったのか、シャルロット様が戻ってきました。
「レード、何か分かった?」
「色々とな。そっちはどうだ?」
「あの2人はこの被害者、つまり騎士のカーク卿の小姓と召使いだそうよ。そしてカーク卿は最近熱を上げている女性がいて、昨日も夜も早くからその女性とこの部屋に入り、呼ばない限りは部屋に入るなと2人に厳命。それで昼過ぎになっても起きてこない主人を心配して、部屋まで起こしに来た小姓が、カーク卿のこの変わり果てた姿を見つけたらしいわ」
「そしてその女性もまた姿を消した……」
「その通りよ。召使いの子が言うには、アンナと言うその女性は、元はエデッサから逃れてきたアルメニア人貴族の家の娘なんだけど、それはもう大変な美人で、カーク卿は相当惚れ込んでいたそうよ」
「なるほどね……なんとなくだが、今回のこの"人食い事件"、犯人が見えてきたな」
グールのように貪られた死体と、大変な美人という消えた女性。繋がりそうに無いこの2つですが、ご主人様の中では何かが結びついたようです。
当時、西洋の医療技術はイスラム教勢力と比べて大きく劣っていたと言われますが、聖ヨハネ騎士団の経営する病院には西洋からの巡礼者だけでなく、アラブ人なども入院していたとも言われ、全ての面で劣っていたとは一概には言えない部分もあったようです。
ですが、深い傷などは容易に感染症の原因になり死に至ったそうです。




