第5話「グール」⑤
話し合った結果、ご主人様が建物の表から野盗の注意を引き、その間に裏口からギルバート様が室内に入り、捕虜を助け出すと言う算段になりました。
「さてと、ここは"騎士らしく"行きますか」
それぞれ配置に付いたところで、ご主人様はそう言いながら、拾った石を建物に向かって投げ始めました。
ゴンッ
ゴンッ
音を立てて建物にぶつかる石。剣も槍も盾も使わず、その辺に落ちている石を使う。騎士に相応しい行いとは言えませんが、この場では致し方ありません。
すると建物の中から人が4人、様子を見に出てきました。服には真新しい返り血、手には武器。件の野盗のようです。
「4人か。もう建物内にはそんなには残っていまい、上手くやれよギルバート」
そう呟くと、ご主人様は野盗の1人に思いっきり石を投げました。
ガッ!
見事命中。倒れ込む野盗。
「野郎!あっちだ!」
「あの格好はテンプル騎士団か!ぶっ殺してやる!」
残り3人が殺気立った顔でこちらに駆け寄ってきます。
剣を抜き、相対するご主人様。3体1にも関わらず、恐れていたり、焦っていたりする様子は微塵も感じられません。
「かかって来い薄汚い野盗共が。今日がお前らの魂が地に堕ちる日だ」
地獄に堕ちると言う意味のようです。
早速切り掛かって来る野盗。それを剣で受け、そのまま押し切るご主人様。腰の入ってない攻撃であったため、よろめいた野盗にすかさず蹴りを入れると転倒したので、剣を突き立てあっと言う間に1人を片付けてしまいました。
「や、野郎……!」
怯む野盗達。
そこに建物の方から声がしました。
「レード!男の方は既に殺されていたが、娘を救出したぞ!」
ギルバート様が上手くやったようです。
「そのままその娘を連れて逃げろ!ついでに応援も頼む!」
「お前はどうするんだ!」
「俺は足止めをするさ、色々とな」
それを聞き、ギルバート様は娘と共に馬に乗り、駆け出しました。
「待てやこら!」
野盗がそれを追おうとしますが、ご主人様が前に立ち塞がり、通しません。
「馬鹿共が、殺しちまいやがって」
「けっ!バカなフランク人が、俺たちに刃向かうからだ!女もたっぷり可愛がってやってたのに邪魔しやがって!」
「つまり殺した後にそのまま死体を放置してたのか、本当に馬鹿共だな」
「ぬかせっ!」
2人が斬りかかろうとした所に、先程石をぶつけられ倒れていた野盗から悲鳴が聞こえてきました。
「たっ、助けてくれぇぇ!」
見るとグールに襲われ、まさに生きたまま食われているところでした。
「死体を放置すれはまグールが集まる、当然の結果だ。火を掛けとけば万事解決だったんだがな」
まだそれを言いますか。
その後も十数匹のグールが集まってきて、生きている野盗も死んでいる野盗も、全員食われてしまい、残るはご主人様だけになりました。
「さて……俺は馬鹿共とは違って、簡単には食われんぞ」
剣を構えるご主人様。今はただ、ギルバート様の呼ぶ応援に、一途の望みを託すしかありません。
グール
人肉、特に単独の旅行者や墓場から盗まれた死体の肉を食って生きるイスラム伝説の悪霊。墓地、廃墟、その他の寂しい場所に潜む。
その見た目は醜く、黒ずんだ皮膚に多毛、または禿げた頭に一つ目とも言われている。
中には、特殊な能力を持ち、より狡猾な手口で獲物を仕留める個体もいるらしい。