第30話「怪し火」⑩
物事が解決したと思った時、火とは突然燃え上がるものです。
この日は特に本部の外に行く理由も無いため、午前8時頃の三時課の後、訓練のための準備をするご主人様。訓練用の重い剣を持って中庭に向かう途中、廊下を歩く修道騎士達の会話が聞こえてきました。
「今日の六時課と九時課は司祭のハットー様が外出するため代理の者が執り行うそうだ」
「ハットー様が聖務日課を欠席するとは珍しい。また会議でもあるのか?」
「いや、なんでも例のアンジュー伯の屋敷に悪魔祓いに行くんだとよ」
「アンジュー伯ってあの怪し火のか。最近聞かないからもう解決したのかと思ってたぜ」
ガチャン
音がしたので見上げると、そこには持っていた剣を床に落としたご主人様が立ち尽くしていました。その目は見開き、顔は強張っています。と思いきや、突然走り出すご主人様。
「ご主人様!どうしたのですか!」
ドシン!
しかし走り出した矢先、廊下の角で総長とぶつかってしまいました。
「むぐ、一体どうしたのだレードよ」
「総長!ネラ様のお屋敷を緊急に調査しなくてはならない必要性ができました!市街地への外出の許可を願います!」
「あっ、あぁそれは構わんが一体どうしたのじゃ」
「それでは失礼します!」
「待てレード!総長にこのような無礼を働いて許されると思っているのか!」
喚き散らすピエール様の言葉など耳には全く入っていないと言う感じで、駆け出すご主人様。本部を出、神殿の丘も下り、市街地を駆けていくと、お屋敷から黒煙が立ち上っているのが見えてきましたが、周りには既に多くの人だかりができています。
「くっ!遅かったか!」
人をかき分け屋敷の前まで来ると、そこには業火に包まれたあのネラ様のお屋敷が。
「おい!シャルロット様は!ネラ様のご息女は無事なのか!?」
周囲の人を捕まえ、問いただすご主人様。そこへ、妻のイルドカルド様に支えられながら、ネラ様がやって来ました。
「おぉレード殿よ、娘がまだ中に、まだ火の中にいるんだ!なんとか助け出してくれんか!」
それを聞き、屋敷を睨みつけるご主人様。
「くそ!待ってろ!必ず助け出す!」
そう言い残し、燃え盛る炎の中に飛び込んで行くご主人様。その顔に恐怖は微塵ともありませんでした。
騎士の起源について、思った事を短編として書きましたのでよろしかったらそちらもどうぞ。




