第28話「怪し火」⑧
ご主人様がシャルロット様に剣の稽古を付けてあげるようになってから何日か経ちましたが、不思議なことに怪し火はピタリと発生しなくなったそうです。原因は未だ分からなくとも、このまま解決かと思われましたが、火は見えていなくても完全に消化されたとは限らないもののようで……
この日、ネラ様のお屋敷でシャルロット様に稽古を付け、昼過ぎに本部に帰ってきたご主人様でしたが、そこでテンプル騎士団専属司祭のハットー様に聖堂まで来るように言い付けらてしまいました。狂信と狡猾さを合わせ持つハットー様をご主人様は正直あまり良く思っていませんが、司祭の言い付けを無視する訳にもいきません。渋々聖堂へと向かうご主人様。
「修道騎士レード入ります」
「おぉ、よく来てくれたレード殿。待ちわびたぞ」
「申し訳ありません。最近は怪し火の件でいろいろと歩き回っておりまして。それで、私に何か用件でしょうか?」
「うむ、実はその怪し火についてだがな、ネラ様について興味深い話が耳に入ったので、そなたに伝えておこうと思ってな」
「興味深い話……ですか?」
「実はネラ様の奥方であるイルドカルド様は後妻でな、その前にエリザベート様と言う前妻がいたのだが中々お世継ぎを産まない事から、姦通の罪をでっち上げ、火刑に処してしまったそうだ。怪し火も前妻の呪いだとネラ様は大層後悔し、寄進や今回の聖地巡礼をするに至ったそうだ」
キリスト教の教えにより離婚が認められないとは言え、お世継ぎを産まないから処刑とは、あまりにもご無体なお話。呪いの一つや二つあってもおかしく無いですが……それでネラ様はあんなに怯えていたのですね。
「ネラ様にそのような過去があったのですか……助かりましたハットー様。何かあるなとは思い聞き込みをしていたのですが、中々成果が上がりませんでして。しかし何故そのようなお話を私に?」
「実は、今回の怪し火の調査担当にそなたを総長に推挙したのは私でな。あの激戦であったテコアの戦いを生き残ったほどの優秀な修道騎士には正に適任であろう」
今回の任命はご主人様が良くも悪くも総長からの覚えが良いからと思っていましたが、まさかハットー様の推挙があったとは……意外です。
「他の物が皆死んだ中、生きて帰った事は誇れる事ではありません」
「謙遜するで無い。あの"赤い騎士"に遭遇しての生還なのだからな……」
それを聞きピクリとするご主人様。あの時、周囲に味方は誰もいなかったし、ご主人様も一切口外していないはずなのですが……
当時、テンプル騎士団やホスピタル騎士団に土地や財産を寄付する事は、実際に聖地に行って戦う事の次に免罪が得られる事と考えられていたため、それら騎士修道会には莫大な財産が集まるようになったのです。




