第27話「怪し火」⑦
シャルロット様に半ば無理やり剣の稽古に付き合わされたご主人様。所詮貴族の娘のお遊びかと思いきや、かなり本気で打ち込んでいるのは、その動きからも明らかでした。
「それにしても素晴らしい腕でございますな、シャルロット様」
「今更その畏まった言い方やめてくれない?」
確かにご主人様のわざとらしいうやうやしい言い方は今更過ぎます。
「棚の上の本やチェス盤には埃を被せるままにしている割には、ベッドの下には木剣を隠しているだけあって、中々の腕だ」
「……見たのね。私、子供の頃から剣が大好きだったの。お父様は将来、王家に嫁ぐんだから教養に富んだ会話や、優雅な食事法を覚えろなんて言うけど、そんなの苦痛以外の何物でもないわ。あ〜あ……私も騎士になりたいなぁ」
「それじゃあ、こんな遥か遠くの東方まで聖地巡礼に来るなんてのも、さぞ苦痛だろうな」
「本当よ。お父様は私の周りで起こるボヤ騒ぎを、火の呪いだの何だの言って酷く心配してたけど、まさかフランスとはまるで何もかも違うこんなところまで来るなんて……」
シャルロット様の沈んだ暗い表情からも、本当に普段の生活にウンザリしている感じが見られます。
「そうか……でも今日の気分はどうだ?こんなに思いっきり身体を動かすのも久しぶりだろう」
「もう最高よ!お陰で今日はぐっすり眠れそうよ!おじさんこれからもここに来てくれないかしら。次はそ絶対負かしてやるんだから」
そして打って変わった明るく無邪気な笑顔。本当に剣と身体を動かすのが大好きなのが見て取れます。
「とりあえずおじさんではなくレードだ。そうしてやりたい所だが、ネラ様に見つかると罰せられちまうしな……」
それを聞き、俯きシュンとするシャルロット様。本当にショックのようです。
「だから、たまにならな」
それを聞きパッと明るくなるシャルロット様。
「それじゃあ決まりね!よーし、もうひと勝負よ!」
「もう勘弁してくれ。そろそろ帰らないと怒られちまう。シャルロット様も水浴びで汗を流してきたらどうだ」
「う〜……なら次も絶対来なさいよ!逃げたら承知しないんだから!」
「はいはい、逃げやしないさ」
そう言って、ようやく小さな剣士から解放されたご主人様は這々の体で本部に戻ったのでした。
「やはり今回の件についてネラ様には何か隠し事があるようだな。これだから貴族は」
しかし、ちゃんと収穫はあったようです。流石はご主人様。
「いたた……しかし本当に大した腕だな」
あちこち打ち込まれてもうボロボロですが。
戦闘階級として戦場で戦う事が本分の騎士ですが、中世において"カッコいい"騎士とされたのは、ダンスを踊り、リュートを奏で、チェスを嗜み、その顔は色白でうっすらと頬に紅をさした、戦場で戦う姿とはある種かけ離れたものでした。




