第26話「怪し火」⑥
向き合う女の子とご主人様。女の子は木剣を両手で握り上段に構える、イタリア人が言うところの鷹の構えをしていますが、身長差があるご主人様相手に、上段で構えるのはあまり得策とは思えませんが……
「せぁ!!」
と思っていたのですが、その上段から振り下ろされる剣撃は素早くかつ力強く、その打ち込みは正確です。
「これはなかなかやるな」
初めは適当にいなすつもりだったご主人様も、片手だけで持った木剣では段々と受け止めるだけで精一杯になってきました。
「どうしたの!テンプル騎士団の騎士はこの程度!?」
そしてまた上段から、力一杯振り下ろされる剣撃。それを見たご主人様は、後ろに引いて避けるどころかなんと前に踏み込んだのです。そして剣の柄頭を相手の剣の刃元にぶつけることで軌道を無理やり変え、その隙に素早く握り直した木剣を、バランスを崩した女の子の頭目掛けて振り下ろしました。
「っ……!!」
崩れ落ち、思わず目を瞑る女の子。恐る恐る目を開けてみると、そこには寸止めされた木剣が。いくらご主人様と言えども、流石に女の子の額にぶち当てるなどと言う暴挙はしなかったようです。
「いや大した腕だ。独学か?」
バランスを崩し倒れ込んでいた女の子に手を差し出すご主人様。その手を借りて起き上がりながら女の子は答えました。
「前までいた騎士に教えてもらったのよ。そんなことより、あなたさっきの技、どの教練書にも載って無かったわ!一体どこで覚えたの?」
「まぁ強いて言えば実戦でだな」
グイグイ来るその熱意に、ご主人様は相変わらず押されっぱなしです。
「実戦で……!すごい。私、あなたが気に入ったわ。さぁもう一回よ!次こそは勝つんだから」
それから、2人はひたすら剣の稽古に没頭しましたが、お陰で私はハラハラしっぱなしです。
「はぁ……はぁ……もぉ〜ダメ」
それから大分時間が経ち、ようやく女の子は満足したのか、床に大の字に倒れ込んでしまいました。いやはや全く、誰とは知りませんが高貴な家のお出とは思えない……
「ご満足頂けましたかな?シャルロット様」
え?シャルロット様?あのネラ様のご息女の……
「ご主人様!シャルロット様と知ってなんて危ない事……」
「ふぅ……今日はこれくらいで勘弁してあげるわ。おじさん大した強さね」
私の言葉を遮って出たシャルロット様のお言葉からは、本当に満足した感じが汲み取れ、これ以上ご主人様を咎めても致し方ないと言わざるを得ません。
中世の剣術と言えば、ただやたらに剣を振り回すイメージがあるかもしれませんが、受け方攻め方などの型がある程度体系化されていたそうです。とは言え、攻撃重視ではあったみたいですが。




