第23話「怪し火」③
ご主人様と共に市内にあるネラ・アンジュー様とそのご家族が滞在されてるお屋敷まで来ましたが、その豪華さには驚きました。このお屋敷は親交の深いエルサレム国王フルク様が用意されたものだそうですが、こんなお屋敷を充てがわれるとは、アンジュー様がいかに有力者であるかが分かると言うものです。
「それにしても、遠くフランスからわざわざこの地に聖地巡礼に参られるとは、とても敬虔な方なのですね」
「騎士団への多くの寄進と言い、何かよっぽど後ろめたい事があると見える」
「ご主人様、ネラ様の御前ではくれぐれも……」
「行儀良く、だろ。そんなこと言われんでも分かっとるわ」
本当に分かってるのでしょうか。ここに来る前も髪を整え、マントのシワを直してと、なかなか苦労させられましたし。
門番に用件を伝え入館、応接間で待たされること一時、奥から当主ネラ様とその奥様イルドカルド様が姿を現しました。ネラ様は見たところかなりお年をめされているようですが、それ以上にその顔には明らかに疲れが浮かんでいます。
「よく来てくれた。ロベール殿には最高の騎士を寄越すよう頼んだんだが、君がそうか。早速調査をしてくれ」
「もちろん調査はさせてもらいますが、まずはその怪し火について詳しくお聞かせください」
「詳しい話か……ここでの最初のボヤ騒ぎは到着して数日後だったな。夜中、娘……シャルロットの悲鳴が聞こえたので駆けつけてみると、娘の部屋の片隅が燃えていたのだ。最初はロウソクでも倒したのかと思ったが、その後も同じような事が何度も起こるし、次第にロウソクに火を灯してない昼間でも起こるようになってな……」
「ボヤ、怪し火はご息女のお部屋によく出るのですか?」
「娘の部屋に限らず娘がいる所ならどこでも起きる。娘は本当にお転婆で言う事を聞かんが、もし何か起こったらと思うと生きた心地がせん……」
「ご息女の周辺でですか。何か原因に心当たり等はありますか?」
「心当たりか……うむ……特には無いんじゃが……」
何故か一瞬口籠るネラ様。
「そうですか……分かりました」
「娘の安全が掛かっているのだ、早急な解決を頼む」
この怪し火騒動に大分参っているのか、アンジュー伯というフランスでも有数な貴族にしては覇気の無い感じのネラ様。詳しくは召使いに聞いてくれ、と言い残し、ネラ様はイルドカルド様に助けられるようにしてまた奥に引っ込んでしまいました。まるで何かに怯えてるかのようです。
「貴族に秘密は付き物と言うが、どうやらここにも何やら裏があるようだな」
多大な寄進や聖地巡礼は後ろめたさのようなものを紛らわすためのもの……ご主人様の指摘はあながち間違いではないのかもしれません。
当時、テンプル騎士団や聖ヨハネ騎士団に土地や財物を寄進する事も実際に聖地巡礼したり十字軍に参加するのと同じように免罪が得られる行為だと考えられていました。




