第20話「テコアの戦い」⑧
地面に叩きつけられ、うつ伏せに横たわる赤い騎士。そこへ馬首を返し、戻ってきたご主人様。フゥフゥと息を切らしつつも兜が突き刺さったままの槍を投げ捨て下馬、剣帯に付いていた短剣を引き抜き、赤い騎士に歩み寄ります。
方膝をつき、左手で赤い騎士の右肩を掴み仰向けにした瞬間、ご主人様の動きが止まりました。その顔には憤怒、驚愕、恐れ、そして僅かながらの懐かしさが織り混ざった複雑な表情が。
「タ……レ……ころ……くれ……」
衝撃で半分ほど吹き飛んだ赤い騎士の顔、その口から辛うじて言葉が聞き取れる呻くような声が聞こえてきました。振り上げた短剣を握る手も下ろせず、固まってしまうご主人様。
周りを見ると、テンプル騎士団は皆倒され、ただ1人残ったご主人様目掛けてサラセン人がこちらに押し寄せてきています。
「ご主人様!早く離脱しませんと!」
未だに動かないご主人様。終いには短剣を落とし、力無く項垂れしまいました。そして……
グサリ
赤い騎士の短剣がご主人様の胸に。力強く突き刺されたその短剣は、チェインメイルもアクトンも貫き、白いサーコートを徐々に赤く染めていくのでした。
「ご主人様ぁぉぁ!」
倒れ込み、天を仰ぐご主人様。立ち上がり、何処へと立ち去る赤い騎士。私はその一瞬の出来事に為すすべもなく、転げ回りながら駆け寄りました。
「ご主人様!ご主人様ぁ!」
「ゴフッ!……コーディス……またしくじっちまったな……後を頼む……」
胸の前で十字を切ったご主人様は、そのまま動かなくなりました。
「ご主人様ぁぉあ!」
………
……
…
業火に包まれる街。そして見渡す限りの死体、それに集まるとグール。矢で射られた者、火に巻かれた者、槍で突かれた者、剣で斬られたもの……皆、様々な死に方をしていますが、一様に今となっては屍食いの餌でしかありません。真っ白なサーコートに、真っ赤な十字の染みを付けたご主人様の亡骸も同様に……
もう動かない敬愛の人。
昨夜の赤い頰も、今朝は白い肌。
今はただ、その冷たい頬を指でなぞるだけ。
落ちる涙がその顔に当たり、流れ落ちる。
「う……うぅ……」
微かに聞こえる呻き声。もしかしなくてもこれは……!
「ご主人様ぁぁあ!」
思わず抱きしめます。
「コーディス……また死んじまったな……」
「ご主人様!今は喋らないでくださいいぃ!」
「そうは言ってもな……少し苦しいぞ」
優しく頭をよしよししてくれるご主人様。不老の騎士、そして不死身の騎士のご主人様。いくら分かっていても死ぬ度その身体が悪霊に蝕まれるのを、悲しまずにはいられません。
少数でトルコ人の占領するテコアの街に突入したテンプル騎士団は一時的な占領に成功するものの、程なくして増援を連れて戻ってきたトルコ人により、ウード・ド・モンフォーコンなど多くの修道士が討ち取られ、聖地での初の戦闘は敗北で終わったのです。




