第18話「テコアの戦い」⑥
野営地を取り囲むように配置された輜重隊の馬車を防壁に、向かってくる敵に弩や弓矢を射かけつつ、接近してくる敵には歩兵が長柄武器を突き出し、敵が崩れたら修道騎士からなる騎兵が突入する。この一連の流れで敵と交戦してどれ程の時が流れたでしょうか。
「これでは埒が開かない!一気に突撃してケリをつけよう!」
「ダメだ!それでは敵の思うツボだ!」
もはや我慢の限界に達している味方を制してご主人様が叫びます。トルコ兵は不利だと思えばいったん距離を取り、有利だと思えばまた近付いて矢を射掛けるの繰り返しで、雲か霞を相手にしているよう。まるで実体がありません。
「しかしレード!このままじゃジリ貧だぞ!」
「焦るなギルバート!援軍が来るのが先か、敵が乱れるのが先か、それを待つんだ!」
ギルバート様に檄を飛ばすご主人様。ポツリとドリュラエウムの時のようにな、と呟いたのを聞いたのは、恐らく私だけだったでしょう。
そんなやり取りをしていると、何か焦げ臭い匂いがしてきた……そう思った次の瞬間でした。
ドォォォン!
凄まじい轟音と共に、防壁の役割を担っていた馬車が一台吹き飛んだのです!辺りに散らばる火のついた木片、衝撃で地面に叩きつけられた従士。あまりの突然の事で、何が起きたのか皆目見当もつきません。
「ごっご主人様!一体何が……」
「どうやらおまえが見たという、例の騎士様のお出ましのようだぜ。まさか実在したとはな」
ご主人様に言われて炎の中を見ると、そこにはゆっくりとこちらに向かってくるソレ……"赤い騎士"が。奴の通った後には死体と炎しか残らない、まさにその言葉通りの現れ方です。
そして破られた防壁からサラセン人が野営地の中に乱入してきました。戦いは血で血を洗う白兵戦となりましたが、数で劣るテンプル騎士団が圧倒的に不利。
この状況を見て、ギルバート様が総長に叫びました。
「ここは我らが食い止めます!総長は軍旗を従えて至急脱出を!」
「しかし……」
「迷っている暇はありません!お早く!」
「総長!ここはギルバートの言う通りです!我らもお伴しますので!」
ここぞとばかりに口を挟むピエール様の促しもあり、総長他高級幹部は脱出を決めました。
「ギルバート!お前も脱出しろ!」
「馬鹿野郎!この状況で引き退れるか!」
その時、赤い騎士の大剣が一閃!乗馬の首を刎ね飛ばされ、ギルバート様は落馬してしまいました。慌ててご主人様が助けに行こうとしますが、敵兵に阻まれ近寄れません。
「ギルバート!」
ゆっくりとギルバート様に近付き、まさに大剣を突き立てようとする赤い騎士。
「あばよ変人……俺の相棒」
「ギルバートォォ!!」
ギルバート様は最期まで、騎士としての勇猛さ、修道士としての敬虔さを兼ね備えた、最高の修道騎士でした。
テンプル騎士団においては、総長指示の前、つまりは軍旗が戦場から下がる前に撤退することは厳罰の対象となっていました。
またもし軍旗が倒れても、まずはホスピタル騎士団の陣地に、その次はその他の十字軍の陣営に身を寄せるよう決まっており、それらが不可能な時に初めて自分の考えによる撤退が許されていました。




