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怪物と十字軍と心臓の無い騎士  作者: カラサワ
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第17話「テコアの戦い」⑤

 野営地で一晩を過ごし、朝となりました。結局昨晩はご主人様に、私の見た"赤い騎士"について話したところ……


「どうせそれは一足先に到着した諸侯の騎士だろ。何をそんなに心配する」


 と言われ、有耶無耶にされてしまいました。果たしてあのような恐ろしい風貌の騎士が、この世にいるのでしょうか……ご主人様の白馬に飼葉をやりつつそんな事を考えていると、突然大きな声が野営地内に響き渡りました。


「敵襲ー!!サラセン人が来たぞー!!!」


 見ると街の向こうから大勢のサラセン人が砂煙を立ててこちらに向かって来るではありませんか!慌てて馬に鞍を着けていると、ご主人様もテントから飛び出して来ました。


「やはり来たか!コーディス!急いで準備しろ!」


「承知しました!と言いたい所ですがもう済んでます!」


 馬に鞍も付け終わり、ご主人様に手を上げて合図します。剣帯を巻く暇も惜しいのか、肩に担いだ姿で駆け寄って来たご主人様。


「さすがだなコーディス!行くぞ!」


 馬を引き、野営地の戦闘指揮所とも言える礼拝所に向かうご主人様。そこには既に、総長に軍司令長官などの高級幹部、それにギルバート様や他の修道士も集まっていました。


「まさか昨日の敵が仲間を連れて引き返して来るとはな……」


 驚きを隠せない感じの総長。軍司令長官達も同じ思いのようです。


「今ここにいるのは一握りのテンプル騎士団のみ、ここは撤退して後続と合流しま……」


 ご主人様が進言しますが、その言葉も終わらない内に従軍司祭のハットー様が声を上げました。


「なりません!ここは踏み止まって戦うべきです!聖地は血を流して勝ち取る事を神も望んでおられます!」


 まさに狂信的なハットー様、と思いきや……


「それにここで勝てば総長ロベール様とテンプル騎士団の名声は大いに高まりますぞ」


 それを聞き、キッとハットー様を睨みつけるご主人様。この硬軟併せた説得、どうやら単なる狂信者では無いようです。


「ふむ……ここで戦果を挙げなければ教皇様との会議も成功せぬか……」


 ハットー様の話を聞き、悩んだご様子の総長。そして命令が下りました。


「異教徒なぞに背を向ける訳にはいかん!戦闘準備をせよ!」


 翻るボーサン旗。馬に飛び乗る修道騎士達。手に持った長柄武器や弩を掲げ、鬨の声を上げる従士達。ご主人様はただただ、馬上で剣を振りかざし、鬨の声を上げるギルバート様を眺めるだけでした。


 野営地にて緊急事態があった場合、近くにいる者は直ぐに現場に向かい、それ以外の者は一旦礼拝所に集合するようテンプル騎士団慣例集に定められているそうです。

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