第13話「テコアの戦い」①
異歴1138年、エルサレムの南にある街テコアがトルコ人に占領され、住民は逃亡を余儀なくされました。
「旧約聖書にある預言者アモスの生地とされる街がイスラム教徒に占領されたと言うのは我々にとっては屈辱であり、急ぎ奪還に向かうべきである」
「また、この戦いでテンプル騎士団が華々しく勝利を飾れば、その栄光は末代まで語り継がれ、天の国への鍵をより早く得る事ができるだろう」
ミサの終わりに、ハットー司祭はそう力説されました。蝋燭の匂いを常に漂わすハットー司祭はテンプル騎士団の聖務日課を執り行い、総長の信頼も厚き方。そんな方からの熱望もあり、総長はこのテコアの街奪還をテンプル騎士団初の聖地での戦場とすることに決めたのです。
街を占領する敵を急襲し不意を突くため、差し当たって本部にいる修道士だけで部隊を編成、出陣することになりました。ミサを行い、武器を聖別し、馬に鞍を乗せ、いざ出陣です。
テコアの街を目指し、粛々と行軍するご主人様やギルバート様、そして私を含めたテンプル騎士団。そこに近くを歩いていた従士達の会話が聞こえてきました。
「聞いたか?"赤い騎士"の噂」
「あぁ、街からエルサレムまで逃げて来た住民に聞いたんだが、人間とは思えない強さの騎士が、男も女も兵士も住民も老いも若いも関係無く殺しまくってるってやつだろ。何でもそいつが通った後には、死体と炎しか残らないんだとよ」
「そこの従士供!必要無い会話は厳に慎め!死と生は舌の支配下にある事を忘れるな!」
「申し訳ありません被服長官殿!」
ピエール様に怒鳴られ、黙り込む従士の皆さん。会則でも沈黙の重要性が述べられていますが、今は何よりも"赤い騎士"の事をもっと聞きたかったものです。
さてご主人様はどうしてるでしょうか。よもや寝てないでしょうね。そう思い馬上を見上げると、驚いたことにご主人様は目を見開き、強張った顔をしていました。まさかあのご主人様が、合戦に緊張するとも思えません。となると、ご主人様は例の"泣く女"か"赤い騎士"のどちらか、若しくはその両方が気になっているようです。
エルサレムの本部を出て二日目、ついにテコアの街が見えてきました。テンプル騎士団の聖地における初めての戦いは、華々しい勝利か陰鬱な敗北か、どちらになるのでしょうか。
テンプル騎士団が初めて本格的な戦闘に参加したのは意外にも聖地では無く、イベリア半島での対イスラム勢力との戦いでした。聖地での初参加がこのテコアの戦いとなるそうです。




