第11話「泣く女」②
ギルバート様と合流したご主人様は、早速今までの聞き込みで得た、"泣く女"の情報を話し始めました。
「見た目は、緑か白に赤、時には黒い衣の上に灰色の上着をまとい、流れるような長い髪。喪服のベールに隠された顔を両手で覆い、泣き叫んでいるのだが、その顔は……」
「……死人のように青白いながらも美しく、その目は燃えるように赤い……」
「なんだ、ギルバートも同じ話を聞いたのか」
「いや……」
ますます青ざめるギルバート様。よく見ると、震えているようにも見えます。怪物の大群を前にしても身動ぎ一つしない、あのギルバート様が。
「俺も見たんだ……路地裏で……」
「怪物だか悪霊、下手したら単なる変人を見たくらいでどうした。歴戦の騎士様たるギルバートらしくもない」
「あれは……死の予兆、バンシーだ。俺の故郷では、見た者にはかならず死が訪れると言われている……」
「まさか、ここはお前の故郷から遠く離れた聖地エルサレムだぞ。そんな怪物が出没するわけ……」
反論するご主人様の言葉に耳も貸さず、ギルバート様が話を続けます。
「テンプル騎士団に入る前、俺にも姓があった。オブライエンと言う姓がな。あの女が現れ、窓の下で泣き叫ぶ時、必ずオブライエン一族に不幸があった」
「だとしても今回見たのは1人2人じゃなくて大勢だぞ。別の怪物か何かじゃ……」
「近いうちに死ぬんだろうな、大勢」
それからのギルバート様は、"泣く女"の事で頭がいっぱいで、もはやこちらの話が入る余地は無いようなでした。とりあえず今日は別れることになりましたが、1人にしてくれと言い、おぼつかない足取りで本部の宿舎に戻るギルバート様。その背中を見送るご主人様。
「もし本当に怪物がギルバートの故郷の精霊バンシーなら、何故こんな遠く離れた場所にまで出没する。"天と地を繋ぐ扉"が開いたあの日から異形の怪物や悪霊がこの世界に現れるようになったとは言え……」
考え込みながら市街地を歩くご主人様。気がつくと糞門から市街地を挟んで反対側にあるヘロデ門から出て、随分と歩いてました。
「しまった、市街地の外に出る許可までは総長に貰ってないぞ。また参事会で告発されるのはごめんだ。戻るぞコーディス」
「はい、ご主人様」
ヘロデ門へと戻ろうと振り向いた先、そこには俯き、顔を両手で覆いながら、泣き叫ぶ女がいたのでした。
テンプル騎士団にはヨーロッパ各地に支部があり、聖地に送り出すための新団員の募集や、物資の供給ための農場の経営を担っていたそうです。




