第10話「泣く女」①
早朝6時前後の聖務日課つまり朝課の後、重要事項の伝達やその日の任務について総長から指示がありました。本日、ご主人様であるレード様とギルバート様が総長から受けた任務、それは……
「"泣く女"の調査か。巡礼者の保護と一体どう関係あるんだか」
「そう言うなレード。先日の参事会での汚名を晴らす良い機会だぞ」
ご主人様は明らかに面倒臭そうにしていますが、ここはギルバート様の言う通りです。総長の話によると、最近エルサレム周辺で目撃されていると言う"泣く女"。今のところ、危害が加えられたと言う話は無いそうですが、もし怪物であった場合は被害が出る前に、早々に退治しなければなりません。早速、総長から許可を貰いエルサレム市街地で目撃者からの聞き込み調査を手分けしてすることとなりました。
エルサレム市街地では、あらゆる人種の老若男女とすれ違います。道を行く人は、ある者は聖墳墓教会に、ある者は嘆きの壁に、ある者は岩のドームに、そしてある者は巡礼者を相手に商売をするため、はるばる遠くからやって来た人達ばかりです。砂漠のど真ん中という不毛な立地にも関わらず、多くの人が集まるここエルサレムは、世界で最も価値のある都市の一つと言えるでしょう。
そこで噂に詳しそうな行商人や屋台の店主に聞き込み調査をしていて分かったことが一つあります。
「目撃者の話は概ね一致している。そして、目撃者も概ね一致した。テンプル騎士団所属の修道士ばかりじゃないか」
何故総長が実害の出ていない"泣く女"の調査をわざわざ命じたのか。それは目撃者の殆どがテンプル騎士団の修道士という奇妙な一致があったからなのでしょう。
「こんな事なら、初めから市街地ではなく本部で聞き込みをすれば良かった。とんだ骨折り損だぜ」
ご主人様、今はそんな事を嘆いている場合ではございません。
時間となったため、ギルバート様と落ち合うため本部からほど近い糞門に私達は向かいました。この門の名前は、市街地から出る排泄物が毎日この門を通って市外へと運ばれるために付けられたそうです。お陰で人通りも少なく、話をするにはおあつらえ向きだと待ち合わせ場所に選びましたが、臭いについてはなんとも致し方ありません。
門の前で待っていると、ギルバート様が現れました。が、見るからに青ざめた顔に、思いつめた表情。明らかに何かあったという体です。
「どうしたギルバート。ここの臭いが酷いのは何時ものことだろ」
「あっ、あぁ……」
一体ギルバート様に何があったのでしょうか。




