第2話 トール砦
「先輩、これって、、、」
酷い有様だ、街は燃え、人々は逃げ惑い、とても煌びやかな街とは言えない。
『、、、』
先輩は黙ったまま、当然だ、自分でも生まれの街がこんな状態だったら気が動転してしまう。
『急ごう』
「えっ?」
『親父が心配だ』
先輩はそう言い残すと、一目散に走り出した、突然の出来事に僕は呆気を取られたが、気を取り直して先輩を追いかけた。
僕は先輩について行く、流れる景色にはひたすら炎がうつっている、、、そんな景色を乗り越え、僕たちは一つの城にたどり着いた。
「はぁはぁ先輩、ここ、ここは?」
『ゼウス城、国王ゼウスが住まう城だ』
「ってことは、ここに先輩のお父様が、、、?」
『その通りだ、さぁ行くぞ』
「まっ、まって〜」
息切れする僕を差し置いて、先輩は足早に城の中へ向かう、それを僕は必死で追いかける。
城の中はとても静かだった、誰一人いない空間に僕と先輩に二人だけで放り出されたような感じだ、階段を登る音だけが響き渡る、そうしているうちに僕たちは最上階の大きな扉にたどり着いた。
『親父、無事か!!』
先輩は勢いよく扉を開けた、僕もちらっと中を見てみた、しかし扉の先には大きな玉座が一つあるだけで他に人はいない。
先輩は無言のまま足を進める、それにつられるように僕もついて行く。
「あの、先輩、ここにいた人たちはどこに行ったんでしょう?」
『さぁな』
僕の質問に先輩は生返事をする、こう見えて相当気が気でないのかもしれない。
「大丈夫ですよ、きっと無事ですって」
『ふっ、そうだな、、、俺としたことが、少し後ろ向きになってたみたいだ、ダメだな、後輩に諭されるとは』
先輩はそう言ってさっきまでうつむいていた顔をあげた、やっぱり先輩はチョロい、と僕は自然と笑顔になった。
『さぁ、そうと決まれば早速、、、』
と先輩が気を録り直そうとした時、、、
『動くな!!!』
「『!?』」
突然の声に僕も先輩も驚き固まる。
「だっ、誰ですか?!」
と言いながら僕は振り向いて声の主を見つける、紅の髪、紅の鎧、紅の剣、とことん紅で埋め尽くされた女騎士がそこにはいた。
『動くなと言ったはずだ、次動けば貴様を焼き払う!!』
よほど興奮しているのか、女騎士は怒鳴りながら切っ先をこちらに向けている、しかしその瞳は少しの疲れを孕んでいるように見える。
「えっと、ちょっ、待ってください」
『問答無用!!』
僕、渾身の命乞い、しかしそれも虚しく、女騎士は突撃してくる。
その剣が今にも僕を切り裂こうという時、僕は突き飛ばされ、先輩が代わりに剣を受けていた。
『そこまでだ、ミネルヴァ』
『!? 貴様、ヘラクレスか』
先輩にミネルヴァと呼ばれたその女騎士は一歩さがってから剣を鞘に収めた。
『久しいな、ミネルヴァ』
『ヘラクレス、今まで何処に行っていた!』
『私が、どれだけ、、、お前がいなくなって苦労したと思っているんだ!』
『悪かったよ、こっちにも色々あったんだって』
『まぁいい、それで、今更どうして戻ってきたのだ?』
『あぁ、実は王に聞きたいことがあってな』
「あの〜」
完全に除け者にされていることに耐えかねて、ついに僕は声を発した。
『ん? そういえば、君は誰だ?』
「僕はJOKER、ヘラクレスさんの後輩です」
『後輩、とはどういうことだ?』
『あぁ、それはな、、、』
先輩はミネルヴァさんに僕たちの目的を話した、グランドブレインの情報を求めてゼウス王を訪ねにきたこと、ついでに自分が五年間何をしていたのかも話していた。
『なるほどな、概ね状況は把握した』
『それで、王は何処に?』
『王はこの城を離れ今は別の場所を拠点としている』
「そもそもなんで街はこんな現状に?」
『それは移動しながら話そう、今はまず王のもとへ案内しよう』
『確かにそうするのが吉だな』
僕は「はい」と言って二人について行く形で城を後にした。
『それで、この惨状はなんだ?』
『あぁ、そのことだが』
城を後にして数分、現状に至るまでの経緯を先輩たちが話し始めた。
『今回のこの惨状は、ある騒動が原因だ』
『ある騒動?』
『あぁ、我らが王、ゼウス王とその妃、ヘラ王妃の仲違いだ』
「つまり、夫婦喧嘩、ですか?」
『そうだ』
たかが夫婦喧嘩、といえば失礼だが、それにしてもこんな惨状を引き起こすほどの夫婦喧嘩がかつてあっただろうか。
『待ってくれ、以前にも御二方の間での夫婦喧嘩というのはいくらか見えたが、こんなに酷い有様は初めてだぞ、今まではせいぜい、城が消し飛んだり、双方とも死にかけたり、その程度だったはずだ』
「いや、それでも随分ヤバいんですが!?」
『だが、これはもはや戦争だ、一体何が原因でこれほどの夫婦喧嘩に発展したのだ?』
『それは、、、はぁ、自らで王に聞いてくれ』
ミネルヴァさんは呆れたような顔をしていた。
『ん、見えてきたぞ』
「あれが、ですか?」
『あぁ、現状、我らの陣地となっている』
こうして僕たちは、現在ミネルヴァさん達が拠点としている、トール砦にたどり着いた。
『ここに、王がいる』
僕と先輩はミネルヴァさんに連れられ、今ゼウス王さんがいるというテントへやってきた。
『王よ、騎士ミネルヴァ、ただいま戻りました』
『ご苦労、入りなさい』
中から聞こえるいかにもな威厳のある声、僕たちはその声の通りにテントの中へ入った。
「こ、この人が、、、」
『ほう、ミネルヴァ、客人か』
王様は僕を見た後、先輩を見て。
『!? ヘラクレス、お主今まで何処に』
『ご無礼を御許しください、王よ』
先輩は今まで故郷をほったらかしにしておいたことへの謝罪をした、しかし
『いや、何もそこまで気にしてないよ、君が気にやむことはない、顔を上げてくれ』
『ありがとうございます』
『あぁあと、あまり堅い話し方はよそう、疲れるからな』
『そ、そうか?』
そう言われて先輩は崩した話し方になった、おそらくいつもはこんな普通の家族のような話し方だったに違いない。
『ところで、親父、今回の喧嘩の原因ってなんだ?』
『え”っ、そっ、それは、、、』
なんだろう、明らかに動揺している、息子にも聞かれたくないのだろうか?
『、、、親父、どうか正直に答えてくれ』
『う、う〜ん』
王様は、唸ったままだ、というか先輩はすでに心当たりがあるようだ。
『わ、わかった、、、実は』
そう言って王様はやっとその原因を話し出す、しかしその口から出た言葉は僕の予想をはるかに上回っていた。
『浮気が、、、バレちゃった』