003「いわくつきの魔法使い」
切れ長で少したれ目の瞳は、長い長い睫毛がその秘宝を隠す。透き通るほどの純粋。夜空に煌めく星を閉じ込めた、ロイヤルブルームーン。日差しを浴びないその肌は色白で、陶器のようにきめ細かい。横から見てもスラリした鼻に見事なまでの鼻と口と顎の黄金比。自信のなさからか、薄く小さな唇をぎゅっと噛みしめ、視線は朧気。潤んだ瞳から溢れるのはまさに月の雫。見た人を魅了し儚げでそれすらも抱き締めたくなるような母性本能を擽る。
彼が噂の張本人だとすれば、「魔女」と間違われたのも身長175センチと男性では小柄で、ぎゅっと引き締まった細身、女性のようにしっとりと長い黒髪からなのであろう。見てくれは悪くない。寧ろ良い方なのだ。
「悔しかったら、君の得意だと言う魔法で極悪な悪魔一匹召還して、言い返すが良い!! へなちょこ魔法使いレオンくん!!!」
レオンはしばらくうつむいて考えこんだあと、何やら胸元から細い棒を取り出して、しずしずと奥の部屋に一人で行ってしまった。
「……ちょっと言いすぎたかな? ごめんね? 今日は言いすぎたよ。レオン、レオンくーーん?」
……ポタ、ポタ……。
真っ白な世界を胸元の傷口から溢れだした純潔の血が赤く染めあげる。
旦那様を失ったあの時と同じ。
身を隠す粉吹雪の中、奪い去る体温。
白銀の世界に染み込む紅の色ーー……。
彼女は静かに目を閉じたーー……。
願わくば旦那様にもう一度逢えますようにと。叶わぬ希望を胸に抱いてーー……。
指先から徐々に凍てつき、意識が段々と遠退く。
彼女は旦那様と過ごした日々を走馬灯に夢見ていた。
優しくて穏やかで大好きな旦那様は常に彼女の隣にいた。
暖かなお部屋。焙煎された珈琲豆の香ばしい香り。旦那様はいつも一冊の本に沢山の時間をかけて、一門一句、文字を味わうようにゆっくりと読んでいた。
彼女は元々右足が不自由で、窓から見る外の世界に見惚れていた。めぐる巡る季節に瞳を輝かせ、素敵な物語を子守唄にすやすやと眠りにつく。彼女にはそれが幸せだった。
旦那様が突然外に出て行ってしまった時、部屋に一人残された彼女は足を引きずりながら必死で追い掛けた。
けれど、初めて外に出た現実はあまりにも残酷な世界だったーー……。そして、二度と、旦那様と再開することはなかったのだーー……。
……それから、それから。いくつもの季節が巡り、旦那様と暮らしたおうちには誰も寄り付かなくなった。彼女もまた新たに夫を見つける訳でもなく、未亡人の妻として身を隠してひっそりと暮らしていた。
残された半世は限り無く孤独だったけれど、彼の残してくれた沢山の本を見るたびに涙が溢れ、二人の思い出を思い出しては幸せを噛み締めていたーー……。
「そうね。私、旦那様に愛されて幸せだったわーー……」