018「本音」
ザザーッ。
ザー……。
終わりの見えない想いが何度もランゼリゼの胸に込み上げては必死にこらえ、深く深呼吸して気持ちを沈めていた。
あの後、黒猫のシャルルが教会の奥の部屋からシスターを呼び寄せてくれて、二人と一匹を暖かな部屋へと案内してくれた。
一晩、木製のベッドでゆっくり体を休ませ、明け方、シスターは教会にあるささやかな食料で朝食を作ってくれた。
レオンの具合が良くなるのを待っている間に、ランゼリゼは教会の掲示板に貼ってあった行方不明者の所持品の中から見覚えのある物を見つけた。
金の腕時計。
それは生前旦那様が肌身離さず付けていた物と似ていた。
ランゼリゼはシスターに腕時計がどこにあるか尋ねた所、今は自衛団に保管されているという。
ランゼリゼはすぐに自衛団のカネスに連絡を取りたいと願い出た。
旦那様の遺品。古い記録書の中から、それをカネスは見つけてくれた。木箱の中から中身を取り出すとそれは確かに旦那様が着けていた腕時計だった。
しかし、手元に渡されたのは腕時計のみで、記録書によると当日、側に遺骨だとか他の遺品は落ちていなかったそうだ。
それでもランゼリゼは腕時計を大切に引き取った。
時計の針はあの時の時刻で止まってしまっている。錆びれた腕時計。
腕時計が発見された場所は、海岸の砂浜だった。
天災から数年かかってから発見されたのには、海の中で沈んでいた時計が流されて海辺に打ち上げられたのだろう。
それはわずかな手がかりでも、旦那様がそこにいるであろう証拠だった。
その日からランゼリゼは何度も何度も海岸に足を運ぶ。
車椅子から降りて、木の杖で体を支えながら片足を引きずり歩く。足がもつれ、崩れ、砂浜に体を打ち付ける。
濡れた砂浜に顔が着き、頬やドレスが砂まみれになる。
それでも、顔をあげて、目の前の膨大に広がる海に訴えかける。
「……旦那様、ここにおられるのですか?」
ランゼリゼは何とか起き上がり、その場に両足を着けて座り込む。そのうち、波が押し寄せて、彼女を連れ去ろうとした。
去り行く波に呼び掛ける。頬からは涙がぽろぽろと落ちた。
「馬鹿なことは止めなさい」
太ももからずぶ濡れになってしまった彼女を助けようと、後ろから体を救いあげられる。
霧の中から伸びる力強い手。首から下げられた十字架。
黒い祭服を着た神父は心配そうな表情で彼女を抱き締める。
「悩み事があるなら話してください」




