015「魔法使いと過去の話」
ーー20年前、misttown。
この街は一度海の中に沈んだ。海底で発生した超巨大型地震により、間髪入れずに発生した津波が海岸沖から街に向けて街一つ飲み込んだ。
史上最悪の天災。死者1000人、行方不明者800人にも及んだ。その中でも唯一被害が少ないと思われた場所があった。そこは辺りが背の高く太い幹の樹木に囲まれた、高台のある一部地域である。
近隣の人達はより高い場所を求めて森の中を逃げさ迷った。住み慣れた家屋は浸水し、迫り狂う津波からは逃げれたものの、その夜に突然降った雪によってほとんどの人が亡くなったーー……。
数日後、近くの街から駆けつけた救助隊が話していた話によると、国境となる橋を超え、なんとかたどり着いた頃には、とてもこの場所に街があったとは思えない悲惨な状況だったと言うーー……。
海辺近くの建物はその姿さえもその場にはなかった。雪掻き後の道路のようにがっぽりと削られ、津波の凄さを痛感させられた。あんなに賑わっていた繁華街でさえ、シンと静まり返っている。一階は浸水。水が引いた後、逃げきれなかった人達が次々と一階から見つかった。
遺体は教会へと運ばれた。
そして、被害が少なかった場所、高台にあるとある資産家が住むお屋敷のまわりも悲惨な状況だった。皆が地主に助けを求めようと上を上を目指し、力及ばず途中で倒れた人、足を取られ水の中に引きずり込まれた人、その遺体は森の中で見るに耐えない姿で発見される。
この天災の救助活動は長年に及んだ。救助隊は高台に慰霊碑を立てて、死者の魂に手をあわせたーー……。
そして、長い歳月が経ち、街は再起した。
防波堤が立てられ、街の修復が進み、旅人が街を立て直そうと奮起する。
だが、異変に気づいたのはそれからだーー……。
いつしか街全体が霧に囲まれ、ある一定の温度が保たれている。街には暖かい春が来なくなり、そこに移住した旅人はひっそりと伝え言うようになったーー……。
白昼夢の街と。
「レオンは僕の幼なじみで、この街の復興にも協力してくれた人物なんだ」
街の外れの古いお屋敷で見つかった少年は人一倍臆病で繊細な性格の持ち主だった。地主と関係があるかと思い、訪ねてみたが、彼は地主の甥っ子という訳でもなく無関係だと言う。
少年とは反対に活発でやんちゃな男の子がカネス。カネスの父親は救助隊員で、長年の救助活動を行うにあたって、看護師の妻と息子のカネスを引き連れてこの街に移住して来た。
カネスは勇ましい父親の姿を見て育ち、自分も復興の一員になりたいと志願し、特別捜査員の就に就いた。レオンの「魔法使い」の力を目にした時は正直驚いたが、彼は街の復興の為に随分と協力してくれた。
急速な街の成長は、表向きは科学の発展とされているけれども、実は彼の「魔力」のお陰でもあったーー……。
「僕は嘘つきだ。だから、嘘をついている人も見抜くことができる。ねぇ、ランゼリゼ? 君は……今、一体どこにいるんだい?」
ーー霧で隠れていた満月が姿を現す。
不気味に青く発光するブルームーン。
音もなく静かに沈み行く街。そして降り積もる雪。
それらは容赦なく死神のように僅かな希望さえも奪っていく。
「旦那様、ランゼリゼはもう一度……あなたのそばに……」
雪虫のようゆらゆらと宙を泳ぐ一つの魂が、愛しき人を探してさ迷い続ける。どこかもわからない、深く深く暗い場所から愛しき人が優しく名前を呼ぶ声が聞こえる。
「……ランゼリゼ」
「ああ、旦那様、ここにおられたのですか? ああ、良かった。旦那様、生きておられるのですね」
だが、いくら彼女がそばに近寄ろうとも彼はその場から動こうとはせず、それどころか、彼女を拒絶する。
「ランゼリゼ。君はここに来ては行けないよ」
「どうして、そう言って私から離れて行くのですか? ああ、旦那様。私もここにいます。あなたのずっとそばにーー……」
彼女が「もっともっと」と近寄ろうとした瞬間、彼の姿は消えた。そして、強引に強い力に引っ張られ目をつむってしまったーー……。




