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013「事情聴取」

 

 胸元に煌めく銀バッジ。上下黒で引き締まった制服。腕には特別捜査員を証明する、七つの星のエンブレム。胸元の線と線を繋ぐ星は勲章の証。

 彼はお屋敷に入り、客用の椅子にどっしりと座ると腕を組み帽子を脱いだ。短髪赤髪、一重瞼はつり目で男性らしくキリリとしていた。薄顔美男子。魔女の使い魔(ヘルハウンド)



「レオン。あれほど誤解を招く妙な格好は止めにしたらいいと忠告したばかりだろう。それで、この騒ぎは一体どういうことだ? 街の住民から、お屋敷に魔女が出たと通報があって様子を見に来て見れば……。噂を止めようども、街の噂は自衛団の上層本部まで回っていて、火消しに偉い労力を費やしたんだからな」


「妙な格好をしているつもりはないのですが……」


 レオンは相変わらず黒いローブを頭からすっぽりと被り、隙間から盗み見るように相手の様子を伺う。その挙動不審な様を見て、ランゼリゼとシャルルは「その格好だって」と隣で冷や汗を流していた。


「十二分に怪しいだろう……!!」


 苛立った彼が思わずテーブルを叩いたので、そばに置かれたティーカップの紅茶が波紋を立てる。ソーサーに置かれた金の可愛らしいスプーンがカタンとテーブルに落ちた。


 レオンは慣れているのか全く動じず、少し不貞腐れたように、プイッと視線を反らした。


「まあまあ、カネスさん! その話は置いておいて、紅茶が冷める前にどうぞお召し上がりください。男性でも好まれるというダージリンティーをご用意致しました。すっきりとした爽やかな紅茶でございます」


 ランゼリゼは棚から手作りのフィナンシェを取り出す。ちょうどしっとりとした頃合いのプレーンなのにふんわりと甘い風味が広がる香ばしいフィナンシェだった。


「この気の利いた素敵な女性は誰だ」


 カネスはランゼリゼの細く滑らかな指先を掴んで顔をじっと見つめた。すると、テーブルに置ちたはずであろうスプーンがふわっと宙に浮き、二人の間を引き裂く。一瞬空気が強張り、宙に浮いているスプーンがくるくるっと回転して方向転換すると、カネスの額の前でピタリと止まった。



()()()()です」


 向かいの席の主は脅威的な瞳でスプーンを操る。

 ならば、人差し指一本で「こんなもの」と浮いたスプーンを退かして、目の前の淡く色をつけた薔薇のように美しい女性を逃さんとする。


 それならば、食器棚が揺れ、扉が開き、ティーカップやスープ皿、ナイフにフォークが一斉に飛び出し、カネスの身動きを封じる。

 そこで、カネスは腰に付けた革製のホルスターに指をかける。


 一部始終を見ていたランゼリゼは、彼がピストルに触れる前に仲裁に入った。


「喧嘩は止めてください!!!!」


 彼女の一声でピリリとした張り詰めた空気が少しだけ柔らかくなった。二人は罰が悪そうに視線を会わせるとお互いの武器をしまう。


「馬鹿だなぁ、彼らは本気じゃないよ」


 黒猫のシャルルは大きな欠伸をして「いつものこと」と呟いた。



 お茶会の合間、二人の話を詳しく聞くと、どうやらレオンとカネスは古くからの付き合いで長い友人らしい。

 カネスは街で配布されている情報紙を一部持ってきてくれた。そこには、昨日小包を持ってきた配達員が流した噂が大きく載ってあった。


「お屋敷に魔女出現」


 情報誌を目の前に差し出されても、レオンはのんびりとお茶を飲んでいる。しまいには、「このフィナンシェ、明日まで取っておいたらもっとしっとりとしますかね」だとか「生クリームを添えたら一層美味しくなるかも」とか呑気なことを呟く。


 カネスは、静かにティーカップを置き、お花畑真っ最中のレオンに向かって「街の住民が恐れている、魔女の正体がこののんびり能天気野郎だとばらしてやろうか」かと彼を脅した。


 まあ、それでもカネス魔女レオンの正体を知っていても、彼を匿い、他の人には絶対に事実を明かさないのには特別な理由があるのだけれどーー……。



「それでだ。その火消し作業というのが、今日俺がここを尋ねた理由だ。上層本部から自衛団の奴等に屋敷内をくまなく散策して、魔女の正体を突き止めて欲しいと命令が下り、慌てて俺が全主導権を引き受けたんだよ」


「それでは、カネスさん、たった一人でいらしたのですか? 他の仲間は一人で行くことを許して貰えたのでしょうか」



 カネスはレオンを見て、ため息をつく。


「俺一人で十分だと言ったんだ」


 まあ、それをはっきりと上の上司に言えるのも、彼の今までの信頼関係と彼がそれくらい仕事が出来るからなのだろう。それは、話す度に揺れる星の勲章が全てを物語っている。


「レオン、取引をしないか? 俺はこの屋敷に魔女など住んでいなかったと嘘の報告書を書く。報告書の捏造だ。

 その変わりに、俺の言うことを一つ聞いて欲しい」


 レオンはその言葉に紅茶を飲もうとする手を止めた。


「魔法使いと取引をしようと言うのですね?」


 カネスは頷く。


「いいでしょう。但し、いくらあなたが僕の幼なじみだとしても()()()はしませんからね」


 レオンはソーサーにゆっくりとティーカップを置いて、テーブルに肘を付き、両手を組んだ上に顎を乗せ、口を開いたーー……。



「さあ、取引をしましょうかーー……」

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