012「訳あり妻の再婚事情」
真っ白な世界に染み込む紅の色ーー……。
最後に願ったのはーー……。
『どうか……どうか。旦那様にもう一度逢わせてください……』
静かに降り積もる細雪。
雪は段々と静まり、雲で隠れていた月が心配そうに姿を表す。夜空に浮かぶのは神秘的な青い月、ブルームーン。
遠くから世界を見渡たせるほど、大きな姿をしていても、彼女の背中に積もった雪でさえ、払い除けられないもどかしさ。月は嘆き、瞼を深く閉じた。
「……はっ」
ランゼリゼは額に大量の汗を流して瞳を開けた。
「旦那様!?」
彼女は少し開いたドアの隙間を見て錯乱していた。
ベッドから上半身を起き上がり、毛布を退かして床に足を着ける。足は曲がるのだが、力が全く入らない。ベッドから崩れ落ちるように大きな音を立てて床に転がる。
「あいたたた……」
薄汚れた天井を見上げて、自分が夢を見ていたことに気づく。
「二ャーオン?」
黒猫のシャルルがドアの隙間から走ってやってくる。
「……大丈夫?」
続けて長い黒髪を緩くひとつ結びにしたレオンが心配そうに駆けつけた。
ランゼリゼは慌てて身なりを整える。子供のように膝を赤くして、隠すようにスカートの裾を膝下まで伸ばす。胸元が大きく開いたパフ・スリーブの袖を直す。
「お腹が空いたのかな?」
優しく微笑む彼は包み込むように抱き上げると、ベッドへ寝かせてくれた。
ランゼリゼの表情は暗かった。
あの日、旦那様は彼女を一人置いて出て行ってしまった。そして、旦那様がいなくなった後もお屋敷に一人取り残され、あの残酷な夢の続きを繰り返した。
彼女は長い間、大きなお屋敷に独りぼっちで、ないていたーー……。
そして月は願いを叶える変わりに、彼女の心を解放したのだーー……。
ランゼリゼは涙をぐっと堪えて、にっこりと微笑む。
「私も朝御飯の準備お手伝いします!」
そんな、優しい朝を迎えた1日の始まり。二人の物語を動かす人物がゆっくりとお屋敷に向かっていたーー……。




