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011「訳あり妻の居候 ショッピング」

「白昼夢の街 The cityシティofオブ daydreamデイドリーム。だが、それは本来のこの街の名前ではない。この街の名前はmistミストtownタウン。街自体が広いので12地区に別れていて、僕達が立っているのが商店街のある東の2番地区区域」


 たどり着いた先は人通りが少ない路地裏だった。レオンは車椅子を引く私にあわせてゆっくりゆっくりと歩いてくれている。


 霧の街ということだけあって、太陽は霧と雲に隠れ、街全体が薄暗い。街の時計を見てみたが時刻は午前11時。周りが森で囲まれているからなのか、どこからかカラスが飛んできて、屋根や店看板に止まりこちらの様子を伺っている。


 すれ違う人は、黒や灰色、薄汚れた色の洋服を着ていた。石床いしどこの床、赤レンガの街並み。そこの一角に「vintageヴィンテージshopショップFridayフライディcatキャット」はあった。


 赤紫色の外観にガラス窓に描かれた歩く黒い猫。トルソーに飾られた総レースのワンピースは年代物だというが実に味わい深い一品である。


 店内は薄暗く、天井から六立体星型のランプがいくつか吊るされている。ドレスにワンピースにジャケットに鞄に靴。小物もリングやネックレス、ブローチにタイピン。色々ありすぎて、どこから手を着けていいやら迷った。


 レオンは「僕は奥の部屋で座ってますから、気にしないで、ゆっくり選んでください」と言い残し、歩いていってしまった。肩に乗っていた黒猫のシャルルは「どうせ、レオンのお金なんだから、欲しいものだけ買ったら良い」と言う。ランゼリゼは居候の上、自分の洋服をタダで買って頂くなど、申し訳がなく、どうしょうと固まった。


 ふと、鏡の前で自分の姿を確認する。顔を隠していた真っ黒のローブから顔を出す。日を浴びたことがあまりない白い肌に細くて柔らかな髪。光の加減によっては琥珀色に輝く、グリーンから茶色にグラデーションされたヘーゼルの瞳。

 肩にかかった髪を払いのけ、首に巻かれた淡いピンク色のリボンに指をかける。小さな鈴蘭の鈴付きのチャーム。それを隠すように彼女は一枚の真っ黒なワンピースを選んだ。サテン生地のようなサラリとしたワンピース。襟元がセーラ服のような大きな白い襟で、ワンピースの裾には十字架が白い糸で刺繍されている。


「これなら、六角形の星形のネックレスが似合うわ」


 後ろから声をかけられる。

 どうやら、店の女店主がランゼリゼの様子を伺っていたようだ。黒のゴシックドレスに身を包んだ婦人。

 顔周りを覆うチュールにまあるいトーク帽。細やかな結晶が散りばめられたブラックアイシャドウにミステリアスな紫色の口紅。


「僕の可愛らしい花嫁に悪戯はやめてください」


「まあ」


 振り向くと長髪の男性が立っていた。

 黒のシルクハット、足先まで隠れる長いロングコートに双方の両目を革の眼帯で隠したレオンが。


「気に入りましたか? ランゼリゼさん?」


 顔は隠していたが声色ですぐにそれが誰だか気づいた。

 レオンは口元を緩ませる。


 ランゼリゼはというと、店主にヘッドドレスや、先の丸い革のシューズを履かせられていた。


「それでは、こちらをいただきましょう」


 レオンはなぜか両目が隠れていても、ランゼリゼの着ていたドレスを迷わず指差す。


「レオン様? あなた瞳を隠していても周りが見えているのですか?」


 すると黒猫のシャルルがやって来て、ランゼリゼの足元で尻尾を振る。


「レオンは魔法使いだから、暗闇でも両方の瞳を隠していても周りを見ることが出来る。暗闇に慣れているのさ」


 レオンはお代を済ませると、誘導するように店から出た。



「……あら? 箒はどうされたのですか?」


 レオンは先に青い宝石がついた杖を見せる。


「ローブと一緒に杖の中にしまいました」


「魔法使いって何でも有りなのですね……」


 二人と一匹は街の霧の中に消える。



「何でもではありません。

 魔法は便利でもあり不便でもあるもの。僕らは常に強力な魔力の源を欲していて、魔力が足りないと動くことすらままならない。


 魔力の源は自然の伊吹や生きている人間の生霊。

 それ故、魔法使いは意味嫌われ、自然界に溶け込み人間の目を盗んでひっそりと生存して来た。

 魔法使いの血をひかない科学者達ものたちは魔法そのものを否定し、己の知恵を使ってさまざまな機械を発明した。

 科学者達のお陰で文明が発達した今、魔法使いだなんて足手まといでしかない。


 純潔の魔法使いのなんて不便なものですよ」



「レオン様……」


 

 レオンは「呼ばれ方」が無性に無図痒く、ランゼリゼに断りをいれる。彼女は今まで旦那様、そして周りの人達のことを「呼び捨て」になんて出来なかったので「レオンと呼ぶように」と言われても不満げな表情をした。



「……僕は一人でも全然寂しくはないよ。側にはシャルルもいるしね。……それに、僕には生きなければいけない、ある目的があるから」


「目的……?」


「お屋敷の元住人の遺言でね、僕はあそこで彼の大切な猫が帰ってくるのを待っているんだ」


「ーー猫を?」



 レオンは胸ポケットから銀で出来た表面に鈴蘭の紋章が描いてあるロケットを取り出す。


 ロケットを開くとそこには古びた一枚の小さな写真が入っていた。


 銀色の毛並みに首もとのふわふわとした毛が特徴の長毛種の猫。サイベリアンだろうか。

 とても美人で大人しそうな猫だった。


 レオンはロケットを再びしまう。



「……さあ、お話もここまでにしましょう。次は夕食の食料の調達に行かなくては」



 レオンは気丈に振る舞い、ランゼリゼの車椅子を後ろから押す。その前を黒猫のシャルルが導くように走った。



「今夜は魚料理が良い」


 シャルルは細くて長い尻尾をピンと張って、小さな鼻をピクピクと動かした。



「あっちから、美味しそうな魚が焼ける匂いがするよ!」

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