友達の姉におっぱい触らせてもらう話
もはや人の家の匂いすら感じないくらい梨音の家に来ることに慣れた。
幼馴染、と呼ぶには中学からだから腐れ縁と言った方が良いかもしれない。要は私は梨音とすっかり気の置けない仲になって、暇さえあればしょっちゅう家にお邪魔してだらだら遊ばせてもらっているということだった。
が、今回は別に梨音は関係なくて重要なのは梨音の部屋の間取りの方。
玄関から入っての廊下のすぐ左に彼女の部屋はある。ベッドにパソコンにテレビみたいな家具家電があって、ゲーム機やマンガや食玩みたいなフィギュアも置いてあって、それほど趣味のない私にはこの部屋の雑多な雰囲気に憧れがある。
彼女のベッドの上に寝転がって、梨音が勉強やゲームしてる端に、こういうのを眺めて暇そうにしてるのだけで充分楽しいのだ。
「飽きないね」
「まね」
短く言って、四足歩行モンスターの食玩フィギュアを興味深く眺めていると、玄関の扉が開く音、そして凛と高い声で
「ただいまー」
と間延びした梨音のお姉さんの声がした。
「あこんにちは」
「どーもです」
廊下を通って軽く会釈すると、つやつやの髪が光に照らされてわっかみたいに見える。私達より一回り大人の、高倉家のお姉さん。
高倉梨子さんを見て、しばしば思うことがある。
「ね梨音、梨子さんって……」
とまで言い出して、いつも言えなくなるのが私。
「だ~か~ら~なんだよそれぇ! いっつもいっつも私の姉ちゃんがなんなの!?」
今日も言えなくて梨音をキレさせてしまった。高校生にもなって女二人、わちゃわちゃと取っ組み合いする関係ってどうなんだろうと思うけど。
私にとって高倉梨子さんは、友達のお姉さんでしかない。
梨音の部屋でだらけていて、たまに帰ってくる時か出かける一瞬の間だけ顔を合わせる顔見知り、程度の関係。
クラスの友達だってまだいろんな情報が入ってくるだろうに、梨子さんのことは梨音もそんなに話さないから私には外見と大学で文芸サークルに入っている知識しかない。
幼馴染であったなら、きっと私は梨子さんのことも昔から知っていて、幼心ならではの無謀で彼女の知りたいと思ったことをなんだって聞きに行けただろう。
でも彼女を知ったのも中学の時だった。私は既に子供というには大人で、梨子さんはますます大人だった。
初めて梨子さんと顔を合わせた時、私はベッドで寝転がっていたから高校のセーラー服を着ていた彼女と目が合って一瞬気まずい空気になったのを印象深く覚えている。彼女もきっと梨音に私のことを聞いていただろうし、私も姉がいると梨音から聞いていたから、急いで座り直して、気まずい会釈をしてその場をやり過ごした。
あの時に梨音の部屋なのに、ここは他人の家なんだって強く自覚したし、梨子さんにも自分の家に帰ってきて一息ついているのに驚かせて悪かったなぁというちょっとした罪悪感も覚えたりした。
そして、たぶん一目惚れでもあったんだと思う。
やんちゃなくせにオタクっぽい趣味の梨音に比べて、つやつやの綺麗な黒髪に、優し気な垂れ目を覆う知的な印象の眼鏡で、趣味も文芸の文学少女の梨子さん。
おっぱいが凄い大きいって一目でわかって、凄いドキドキした。
私も梨音もああはならない。梨子さんはおっぱいが凄く大きくてセーラー服の形がはっきりと変わっているのが分かるほどだ。あんなに出てて、何かにぶつかったりして大変じゃないだろうかと少し心配するくらい。
今でも私はどういう気持ちなのか自分でも把握しきれていない。たぶん、セクシー女優とかグラビアアイドルなんかもサイズだけならそれくらいの人はごろごろいるんだろう。きっと、そこだけ見てもそれほど珍しくない人間なのかもしれない。
でも私が今まで見た中では断トツだった。私にとって初めての人。
「姉ちゃんに言いたいことあるなら直接言えば? たぶん部屋に一人だし」
「……えっ、いやそれは」
「まだるこしいし、私に言い辛いことなら本人に言えばいいじゃん。遠慮しなくていいし」
遠慮しなくていいと梨音は気軽に言ってくれるが、遠慮しかしていないから私はいまだに梨音にさえ何も言えていないのだ。それを本人を前にして直接「あの……梨子さんっておっぱい、大きいですよね」なんて聞けというのか? 聞けというのか!
「あの……梨子さんっておっぱい、大きいですよね」
「……まあ……そうかも」
聞いてしまった。
そんな風に聞いてみることをイメージすること何通りか予想は立てていたけれどそのうちの一つが見事的中してしまった。的中というより気まずい空気になっておしまい、という嫌な結果だけど。
「いやあの、変な意味じゃなくて、梨音の部屋からよく梨子さんのこと見るたびに凄いな~って思ってたんですけど、あはは……」
「はは……」
引いてない? 引かれてる。いや本当に変な意味とかじゃないんだけどちょっと言い方を間違えてしまったのかもしれない。
「違うんです、なんか聞いてみたかったっていうかあのその」
「触ってみる?」
ええーなにこの展開。
梨子さんは恥ずかしそうに伏し目がちだけど胸を示すように右腕を胸の前首の下くらいに当ててなんか心の準備をするようにしている。
「いっ、いいんですか!?」
「えっと、神楽、ちゃん、がしたいならだけど」
「うぅ……触ってみたいです……」
なんて、悩むことなく即答してしまった。でも悩む必要はない、どちらかと言えば触りたいし触らせてくれるなら甘えるのが道理なのだ。友達の姉だからと遠慮するくらいなら、おっぱい大きいですねなんて私は言わない。
もう気持ちは振り切ったのだ。今日は梨子さんに甘えるつもりで、と。
そう、胸を貸してもらうつもりで!
「で、では」
「……うん」
正面から、両手で梨子さんの胸を拝借。ワイシャツ越しでも確かに暖かみが伝わって、そこに人間の存在感があるようだった。
「……えっと、大丈夫? このままで……」
「それじゃ一枚脱いでくれますか?」
「遠慮しないね」
あはは、と今度はちょっと楽しそうに笑ってくれた。梨子さんなりに気を遣っているのか楽し気な雰囲気を出そうとしているのかもだけど、無理をさせてしまっているみたいでそれはそれで申し訳ない。
ワイシャツのボタンをはずして羽織る形になったけど、その下には薄い桃色のシャツがあって、肩口などに下着がついていることがわかる。柔らかそうな肌艶を見ていると、大きな胸と健康的な肉体に関連性があるのかも、と思う。
ワイシャツより柔らかなシャツと肌の最終防衛線であるところの下着二枚だけ、先ほどよりも手触りも暖かみも良くなって、胸の柔らかさと弾力を手肌に感じる。
「あの、やっぱりたくさん食べたりするんですか?」
「え、太ってるわけじゃないよ」
「じゃ胸に自然に栄養が行くんですか? 食べてるものって梨音と一緒ですよね。私も梨音も全然胸大きくならないからなんで梨子さんがこんな風になってるんだろうって不思議で不思議で……」
「えー……梨音も神楽ちゃんも大人になるにつれて少しずつ大きくなっていくんじゃないかな? 大きくならない人もいるけど」
「不思議ですよね。梨子さんみたいに大きな人もいるのに」
「私は別にそんな……」
胸は別に揉めば揉むほど、なんてものじゃないけれど、それはそれで揉めば揉むほどなんだか楽しくなってくる気がする。
「いえいえ大きいですよ。私の知る中で一番大きいです! 自信持っていいですよ!」
「別に、そんなに嬉しくないし……」
「ええっ! どうしてですか!?」
「そんなに驚かれても……。大きくなってもいいことないよ? 見られるし……」
「ごめんなさい……」
「いや、神楽ちゃんはいいよ。たまに男の人で露骨な人とかね。それにサイズが変わると下着も合わなくなるし、邪魔だし、重いし」
「お、おおお、なんかかっこいいですよ! こう……強者の苦労って感じで!」
「なにそれ……こんなの、勝手に重くなる荷物みたいなものだし」
そう言って、梨子さんは私の手の上から自分の胸を強めに掴んでみせた。撫でる程度の私の触り方に比べて痛くないのか心配になるくらいで胸に指が食い込んでいる実感があった。
梨子さんの手は少し大きくて私の指を包むように広い。
「遠慮しなくていいよ?」
力強い手と相反するように優しく暖かい梨子さんの手と、そんな風に言ってくれる笑顔を見ると、その途端に私はなんとも言えないような胸の苦しみを覚えて、ついに手を放してしまった。
「……」
なんだろう、これ。
「ご、ごめん、痛かった? えっと、私は結構大丈夫だったから、お節介だったかな」
「いえ! あの、緊張しちゃって。触られるの慣れてなくて」
「……そう、それならよかった。ごめんね、急に」
「こちらこそ今日は突然変なこと言ってすみませんでした!」
この苦しみは、そんな罪悪感かと思って謝ってみたけど、全然苦しいのはなくならなくて。
「いいよ。私も愚痴に付き合わせちゃって、ごめんね。ありがと」
そんな風に、屈託なく笑う梨子さんの顔を見るとますます苦しい風に感じて。
その日は家に帰っても、お風呂に入っても、布団に入っても梨子さんのことばかり考えていた。
真っ暗な部屋でも思い浮かぶのは梨子さんのこと、この手で触れた暖かくて柔らかい残滓と、困った風に笑う梨子さんの優しい笑顔。
まるで感情を刷新されたような気持ちだ。かつてうっすらと抱いていた淡い恋心は、今や熱病のように心を支配している。
ますます好きになったというのか、これが本当の恋だというのか、ただわかるのは梨子さんのことが好きだということだけだった。
告白するつもりでもっと仲良くなろう、そうしないと私の熱は冷めそうにないから。




