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少年たちは未知なる世界へ踏み出す

 次の日の朝、悠が教室に着き、自分の机に荷物を置くと、それに気づいた俊秀が悠の席までやって来て、たずねた。

「なあ、例のアプリのことだけど、使い方分かったか?」

「うん、昨日の夜、兄さんからメッセージが届いたから確認したよ」

「おう、じゃあ使い方を説明してくれよ」

 佳奈先輩を死なせた犯人のことが気になって眠れなかったのだろうか、俊秀の目元には大きな隈ができていた。

「えっと、もう授業が始まりそうだから、とりあえずこのアプリの機能だけ教えるね」

 悠はそう切り出すと、手短に説明を始めた。

「まず、僕たちが生きているこの世界、仮に『現実世界』と呼ぶけど、その世界とはまた別の世界が存在するみたい。その世界に行けるっていうのがこのアプリの機能なんだってさ。そして例の犯人はその世界にいるらしい」

「そうなのか……。じゃあ、アプリを使ってその世界に行けばいいってことだな」

 俊秀は鋭い目つきでそう呟いた。

「うん……。まあ、使い方の詳しい説明は授業が終わってからするよ。今日の放課後、一緒にその世界に行こう」

「ああ、了解した」

 そう言うと俊秀は自分の席に戻っていった。

するとすぐにチャイムが鳴り、教師が教室に入ってきて、授業が始まった。

 いつものように。



 授業が終わると、二人は渋谷へ向かった。

「説明によると、このアプリで行くことができる世界は『管理世界』って呼ばれているみたい」

「管理世界?なんだそれ、なにを管理してんの?」

 俊秀は、訳が分からない、といった様子でたずねる。

「現実世界を、さ。この世界の物質はある決まった法則に基づいて運動しているのは俊秀も知ってるよね」

「おお、物理の授業でも習うもんな。この世のいろんな運動は計算できるんだよな」

「うん、兄さんからのメッセージによると、現代の科学では、まだその法則の半分も解明できていないらしいけどね。それで、この世界がそのような決まった法則に基づいているのには理由があるみたいなんだ」

 メッセージの内容を思い出しながら、悠は説明を続ける。

「はあ、理由ねえ。で、どういう理由?」

「それは、この世界は、違う世界の人々によって創られたからなんだ」

「ああ、あれか?たまに聞く、この世界は計算機によるシミュレーションでできた世界なんじゃないかってやつか」

 そういえば聞いたことがある、といった様子で俊秀が言った。

「よく知ってるね。兄さんによると、それは真実らしい」

「へえ、そうなんだな」

「そして管理世界についてなんだけど、まずこの世界を創った人たちが住む世界を『真世界』とすると、現実世界をシミュレーションしてる計算機は真世界にあると思っちゃうんだけど、そうじゃなくて、実際には複数の計算機が仮想空間に点在していて、各計算機が現実世界の各地域を手分けして動かしている。って感じらしいんだ」

「その仮想空間が管理世界だってことか?」

「うん、その通り」

 悠は頷いてそう答えた。そして、そのまま話を続ける。

「それで、なんか例の犯人は管理世界にいるらしいんだけど、管理世界はこのアプリを使っても、どこからでも入れるわけじゃないらしい。計算機がある場所と近い、つまり現実世界と管理世界のつながりが強い場所からじゃないと入れないみたい。ちなみにそれは大都市になってる場所が多いんだってさ」

「だから渋谷に来たわけだな」

 辺りを見渡しながら俊秀はそう言った。視界に入る大きなスクリーンではCDの宣伝がされている。スクランブル交差点はいつものように、サラリーマンや観光客など、多くの人でごった返している。

「うん、例の犯人は管理世界の渋谷拠点にいるらしい」

「よし、話は分かった。それじゃあ、もうその管理世界とやらに向かおうぜ?どうすればいいんだ?」

 俊秀はスマホを制服のポケットから取り出すと、そう言った。

「渋谷に来たらあとは簡単。アプリを起動するだけだよ」

 そう言って、悠もスマホを取り出す。

「オーケー、じゃあ行こうぜ」

「うん」

 そう言うと、二人は同時にアプリを起動させた。


 ピピッ ピピッ ピピッ ピ—————


 そんな電子音が鳴ると、世界が歪み始めた。辺りの景色が、まるでコーヒーに入れたミルクを混ぜたときのようにぐにゃぐにゃと歪んでいく。周りの音も、だんだん遠くなっていく。

「お、おいおい、なんだよこれ⁉なんか世界がぐにゃってなってるぞ⁉」

「なんか楽しいな……」

 歪みは徐々に強くなり、ピークに達すると、少しずつ、ゆっくりと歪みが無くなっていく。

 完全に歪みが無くなると、そこには、殺風景で無機質な世界が広がっていた。

「あれ、さっきまで渋谷にいたのに、人が全然見当たらない……」

「ほら、建物もおかしいぞ。形は同じなのにみんな灰色になってるぜ」

 どうなっているのだろう……、これが管理世界なのだろうか……

 二人は困惑しながらも、歩き回って探索することにした。

「信号とか道路とか、配置はそのまんまなのに全部色が灰色だな。殺風景にもほどがあんだろ」

「こんな渋谷は新鮮だね。ちょっとスクランブル交差点の真ん中に行こうよ」

「お前、楽しみすぎだろ……」

 俊秀は、やれやれといった様子で両手を上に向けた。

「あれ……?俊秀、ポケットに何か入ってるの?」

 俊秀のポケットは妙に膨らんでいる。

「ああ、これはな……」

 そう言って、俊秀は気まずそうにポケットの中身を取り出した。

 俊秀が取り出したのは、大きさが肩から肘までくらいの、大きなモンキーレンチだった。

「…………」

 俊秀は気まずそうに俯きながら、静かにレンチをくるくると回している。

「それ……、使うつもり?」

 悠がたずねた。

「……、別に、ただの護身用だよ……。ほら、犯人を捜してるんだぜ?見つけたら何をしてくるか、わかんねえじゃん?」

「……、まあ、気持ちは分かるけどさ……」

「まあいいじゃねえか、とりあえず探索しようぜ」

 二人の間に広がったきまずい雰囲気を振り払うかのように俊秀はそう言った。

「……、そうだね……」

 そう言って二人は探索を再開する。

 そうして、センター街のような場所を調べているときだった。二人は遠くから聞こえる話し声に気づいた。

「誰か近づいてる!隠れよう!」

 悠はそう言って、俊秀と共に物陰に潜む。


「そういやあ、例の準備は進んでるのか?」

「例のって、あれか?あの核戦争起こして世界を滅ぼす計画のことか?」

 二つの人影が歩きながら話をしていた。


(おい、なんだよあいつら、物騒なこと言ってるぜ?)

(しー、静かに。もう少し様子を見よう)

 小さな声でそう言うと、二人は黙り、近づいてくる話し声を聞こうと、全神経を聴覚に集中させる。


「そうそう、それのことだよ」

「それなら順調らしいぜ。計画通り、大国が自分勝手に動くように仕向けてるらしい。この調子だと年末には勃発するらしいぜ」

「あー、そうなんだ。どんな結果になるのか楽しみだな。まあ、あの世界の人間は馬鹿ばっかだから全滅しちまうんだろうな。いやあ、まったく金持ち連中の考えることは怖ろしいぜ」

「まったくだな。スケールが違うぜ。それに比べたら俺たちのやってることなんて、しょぼいもんだよな」

「まあ、俺たち貧乏人はそれでも十分楽しめるからな。ところで、明日の標的は誰にする?昨日のやつは俺が決めたから、次はお前の番だぜ」

「そうだなあ、昨日例の画像を送った男は、ろくに写真も見ないで無視しちまったからな。やっぱ男はそういうの興味ねえんだよな。てことで、明日は女に送るか」


(おい……、例の画像ってもしかしてあの都市伝説のやつか……?あいつらが佳奈先輩を……?)

俊秀が険しい顔をして呟いた。

(落ち着いて、俊秀。とりあえずあの二人が遠くに行くまで静かにしなくちゃ)

 そして二つの人影は二人の目の前を通り過ぎた。

二人は静かに、だんだん遠くなっていく声を聞き続ける。


「そうだな。せっかくメール送ったのに知らないアドレスってだけで消しちまうんだからな。別に死ねとは言わねえが、もう少し面白い反応が見てえよな。そういやあ、こないだの若い女の反応は面白かったな」

「ああ、あの女子高生のやつか。あの画像見てからずっとビビってたよな。あんな反応は月に一度くらいしか見れねえぜ。すぐに殺さず、もう少し反応を見て楽しむべきだったかもしれねえな」

「はっ、よく言うぜ。まだ殺すなって言ったのにすぐ殺しやがってよ」

「だって待ちきれねえじゃん?俺は大好物は最初に食べる派なんだよ」


 その時だった。

 俊秀はゆっくりと立ち上がり、そっと二つの人影へ、後ろから忍び寄る。

 悠は俊秀のその行動に驚き、止めようとして静かに俊秀を追いかける。

 しかし、悠が俊秀に追いつく前に、俊秀は二人の男の背後に到着する。そして右手に持ったレンチを大きく振りかぶり……、強く振り下ろした。


がこん!


大きな音がして、頭をぶたれた男は倒れた。

「な、なんだてめえらは⁉」

 相方が倒れたことに気づいて、男はそう言いながら振り返る。そして男は倒れた相方をおいて逃げ出した。

「てめえ、逃がすかよっ!」

「落ち着いて俊秀っ!」

 悠は、逃げた男を追いかけようとする俊秀の腕を掴む。

「クソッ、離せよ!」

 そう言って俊秀は腕を振るが、悠は俊秀の目を見つめたまま離さない。

「チッ!もう逃げられちまったじゃねえか」

 男はもう見えないところまで逃げてしまっていた。

「なんだよ、お前は俺に仇を討たせてくれねえのか?」

 俊秀は少し落ち着いた様子で悠にたずねた。

「仇だからって人を殺すのは悪いことだけれど、そうは言わないよ。僕だってあいつを殺してやりたいって思ってる。ただ、勝手のわからない場所でむやみに追いかけるのはよくないよ。仲間が大勢いる場所に誘い込まれて、やられちゃうかもしれない」

「まあ……、そうか。俺はそれでも構わねえけどな……」

 そう言って俊秀は座り込む。

「てか俺、人殺しちまったよな。この世界で殺しても法で裁かれんのかな……、ハハ……」

 俊秀は力なく笑った。そして、辺りを見渡した。しかし、確かにあったはずの男の遺体が見当たらない。

「あれ……、俺……、確かに頭をやったよな」

 不審に思い、悠も辺りを見渡すが、どこにも死体は転がっていない。

「え……、消えたの……?確かにここに倒れてたのに……」

 困惑する二人。そこに遠くから多くの足音が聞こえてきた。

 何事かと思い、音が聞こえてくる方を見ると、さっき逃げ出した男が十人ほどの仲間を連れて、こっちに向かって走っていた。

「あいつらだ!つかまえろ!」

 そう叫ぶのを聞いて、二人は我に返り、走って逃げだした。

「と、とりあえず元の世界に戻ろう!アプリを起動するよ!」

「お、おう。そうだな」

 そして,世界は再び歪み始めた。

 ぐにゃり、ぐにゃり と


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