第6話
お読み頂き、ありがとうございます。
少しでもお楽しみ頂ければ幸いです(^^)
「──あ、違うからね?」
「…………ぇ…………?」
変わらない先輩のほんわかした笑顔が、私に向けられてる。
其処には、戦うとか敵意とか、ぎらぎらしたものは何も感じられない。
「ごめんごめん。ややこしい言い方しちゃったかな? 勘違いしないでね、響」
「そうそう。俺らは争いに来たんじゃねぇんだ」
先輩の隣で、騎士さんも頷き頷き、言葉を繋げる。
えっ、今、何て……?
争う為じゃないって……?
「──僕達は、交渉しに来たんだ」
にこにこ。
先輩が、明るい調子で言った。
「……交渉──……?」
戦うわけじゃ、ないの……?
不安一杯で、縋るような気持ちで先輩を見る。
先輩は変わらず笑んだまま、そうだよと続けた。
「調べたら、今回の勇者遠征は、こちら側の間違いだったんだ」
「──えっ?」
ま、間違い……?
どういうこと……??
「せやねん。ウチらで調べてみたら、むかーしの文献を見付けてな。人間と魔物の、前の戦争について書かれてあってん」
「そしたら、そもそも両者で不可侵条約を結んだって書いてあってよ」
リディアちゃんと騎士さんも、続けて言う。
その真剣な面持ちから、私を騙そうとか、悪意は感じられない。
ごく当たり前のことを言うみたいに、さらっと説明してる。
「だからね。今回のことも、響がこうやって魔王の城に向かわされたことも、間違いなんだよ。僕達は、その謝罪と、和平交渉をしに来たんだ」
六条先輩も同じ。
生徒会長として演説してる時と変わらず、真面目な表情だ。
真っ直ぐに前を見据えて、凛々しい面持ち。
全然、変わってない。
「………………──先輩……」
「──ん?」
ホント。
変わってない。
責任感も強いままだ。
「……その……お話は大体分かりましたけど……どうして、先輩が……?」
そうだ。
だって、ぶっちゃけ先輩には関係無い話じゃない。
ある日突然、この世界に召喚されて。
訳も分からないまま、魔王討伐なんて責務を負わされ。
私の場合は1人じゃなかったから、まだ平静で居られた。
でも先輩は、そうじゃない。
きっと、とても心細かっただろうに……。
それでも屈さず、この世界での役割を果たそうとしてる。
(……どうして、先輩は……)
そんなにも強く、向き合っていられるんだろう──……。
「……どうして、って……」
少しも考える素振りを見せず。
先輩は、当たり前のことを言うように、答えた。
「──可愛い後輩を助けるのは、先輩の役目でしょ?」
……──泣いちゃうよ、先輩…………。
じわりと、視界がぼやける。
まるで、あの時みたい。
入学当初に迷子になって、困り果てていた時。
あの時の先輩みたいだ。
あの時もこうやって、何気なく助けてくれた。
勝手に涙がこみ上げてきて、私は急いでそれを拭う。
「……先輩……ありがとう、ございます……」
「えっ、ひ、響……!?」
ぐすぐす。
涙声になった私に、先輩が慌てて駆け寄った。
あわあわ困ってる。
「わ、ど、どうしよう……泣かせるつもりじゃ、なかったんだけど……」
ハンカチあったかな?
そう呟いてポケットを引っ繰り返す先輩を眺め、リディアちゃんと騎士さんが朗らかに笑った。
場が、さっきまでとは違う空気になる。
和やかな。
あたたかな雰囲気になった。
──のと、同時に。
ぱりん!
硝子か何かの割れる音が響いた。
(…………?)
何だろ、これ?
小さく、でも確かに聞こえたそれに、辺りを見回す。
リディアちゃんの作った異空間は、お城の景色をそのまま写し取っている。
壁も天井も廊下も。
でも時間が止まったみたいに、何も動いてない。
他に誰も居なくて、私達だけ存在してる。
筈、だった。
「──そ、そんな莫迦なッ……!」
信じられない。
そう言わんばかりの声は、リディアちゃんのものだ。
びっくりして彼女を見ると、青ざめた顔で目を見開いてた。
どうしたのかな?
「ウチの異空間に入って来るやなんて……!」
かたかた震えて、ある一点を見ている。
何だろうとそちらに目をやると、何も無い筈の空間に、ピシッとひび割れが出来ていた。初めは小さいものだったけど、段々枝を伸ばしていく。
「……え……? 何あれ……?」
理解できない。
頭上に「?」を浮かべながら、広がっていくひびを眺めた。
「わー、リディアの異空間魔法を破る奴が居るんだー」
感心したように呟く騎士さん。
余裕の発言だけど……顔が強張ってる。
よく分からないけど、異常事態みたい。
ぴしぴしぴし!
ひびはどんどん広がって──。
ばりん!!
あっという間に、粉々に割れた。
がらがらと、景色が崩れ落ちる。
お城の壁も天井も壊れていくのに、その向こうにもまた同じものが見える。リディアちゃんはホントそっくりに作ってたんだなぁ。
景色の破片が、どんどん零れ落ちた。
氷が割れるような音が、辺りに響く。
そんな中、それを踏み締めながら、誰かが入ってきた。
ざり。
音を立てながら、破片の上に長い足が現れる。
続いて上半身が見えて。
まとう外套が、風に靡く。
漆黒を模した人が、姿を現した。
口元は笑みの形だけど、怒っているのが手に取るように分かる。だって、赤い目が笑ってないもん。
奏──魔王様の、ご登場だ。
「──姉さんを、返してもらうよ」
魔王様、やっと登場です!
それにしても文才が欲しいです……。
また訂正投稿するかも知れません(^^;)