第5話
少し間があいてすみません……!
実は未だオチを考え中でして(^^;)
拙い作品ですが、お楽しみ頂ければ幸いです。
えーん。
えーん。
何処か遠くで、誰かが泣いている。
声音から察するに、子ども……女の子かな……?
どうしたんだろ?
泣き声が聞こえる方に、私はぼんやり顔を向けた。
(……──此処は……)
赤色と青色に塗られたブランコ。
ゾウを象った滑り台。
小さな円形の砂場。
夕暮れ時のオレンジに彩られているそれらは、見覚えのある物ばかり。わぁ……すっごく懐かしい……。
此処は、小さい頃によく遊んだ公園だ。
奏を引き連れて、あっちこっち探検しながら色々遊んだっけ……。
思い出深い光景を、しばらく眺めていたけど、その内に人影を見付けた。
年季の入った遊具達に囲まれているのは、5歳くらいの女の子。
(……──あれは……私……?)
間違いない。
あの服、子どもの頃のお気に入りだったもん。
ピンク色をしたスカートの裾を飾るレースが可愛らしくて、母に強請って買ってもらったのを覚えてる。
まあ……今はそれが砂で汚れちゃってるわけだけど……。
其処に居たのは、私だけじゃなかった。
私を取り囲むように、男の子達が3人立っている。
3人共に、意地の悪そうな顔で笑っていた。
(……あぁ~……そう言えば……)
自分の記憶の引き出しを開けながら、ぼんやり思い出す。
この頃って、確か……。
(……引っ越して来たばっかで……)
見慣れない新参者の私は、男の子達に苛められてたんだっけ……。
「おまえ、だれだよー」
「よそもののくせに、あそぶなよ」
「ここはおれたちのこうえんだぞ!」
男の子達は口々に言って、幼い私を指差して笑っていた。
私は怖くて言い返せず、しくしく泣いている。
うーん。
よく覚えてないけど、こんなこともあったなぁ。
けれど。
こういう、私がピンチの時には、奏が助けに来てくれた。
意地悪されたり、苛められた時も。
親とはぐれて、迷子になった時も。
必ず、奏が駆け付けてくれた。
今も私を背後に庇って、苛めっ子達と対峙して──。
「──よくも、僕の姉さんを泣かせたね?」
美少年と賞される綺麗な顔で、酷薄に笑いながら──。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「──って、怖ぁああ!!」
完全に魔王様だよ!!
不敵に嗤う、魔王様だよこれ!!
奏クン、こっわー!!
「うわ、びっくりしたー!!」
がばっと跳ね起きながら、そう叫んだ。
のと同時に、誰かもまた叫んだ。
(えっ)
誰!?
聞いたことの無い声に、私は驚いて振り返る。
座っている私を囲むように立つ3人は、皆一様にびっくり顔。
「寝てたかと思ったら……どんな夢見てたんだよ?」
呆れたとでも言いたげにこちらを見ているのは、金髪の男の人。厳めしい鎧を着てるから……騎士さん、かな?
それに、黒いローブ姿の可愛らしい女の子。藤色の髪が綺麗だなぁ。びっくりして、金色の目をぱちくりさせてる。
あと最後に、もう1人、男の人。穏やかそうな表情で、見覚えのある紺色の制服に身を包んで──。
「──って、六条先輩!?」
「あれ。まさかと思ってたけど、やっぱ響?」
にこにこしながら、その人が言った。
そう。
この人は私の通う高校の先輩で、六条 要先輩。
すんごい面倒見の良い、頼りになる人だ。
入学当初、不慣れな校内で迷った私を助けてくれたことがあった。先輩も忙しかった筈なのに、嫌な顔1つしないで案内してくれた。
それは誰に対しても同じで、分け隔て無く接する彼は、誰からも慕われていた。
でもそれより生徒会長っていう肩書きの方で、うちの高校では有名かな。温厚な人柄が人気で、断トツで当選。凄いよね。
因みに私も、ある意味有名人でした。勿論それは私の人柄とか成績とか、そういうことではなく、ただ単に奏のお姉さんってことで。……この差、切ない……。
見知った顔を見て、懐かしい気持ちで一杯になった。
でも郷愁の思いを悠長に感じてる場合じゃない。先輩が魔王城に居るなんて、違和感ばりばりだ。
「ど、どうして先輩が此処に?」
「え~、響こそ。どうして此処に?」
「えっ! あ……えぇと、私は……」
どう説明したものかな……。
(多分……六条先輩が、奏の言ってた『勇者』……だよ、ね……)
この世界に、私達の通う高校の制服なんて存在しない。
だからそれを着てるってことは、この世界の人じゃないってことで……。
きっと先輩が、新たに喚ばれた『勇者』なんだろう。
先輩の登場に驚きながらも、頭の何処かでぼんやり考える。
(じゃあ、先輩は、私のせいで──……)
奏はあぁ言ってたけど……。
でもやっぱり、私があぁいう結果にならなければ、新しく召喚しようってならなかった筈で。
(…………やっぱり、巻き込んじゃってる…………)
私の、せいだ──……。
申し訳ない気持ちで、一杯になる。無意識の内に唇を噛んだ。
どんなに謝っても、きっと足りない。
どう言えば良いのか考えあぐね、言葉を探して言い淀む。
すると。
先輩が、こてんと首を傾げながら続けた。
「響は一体どうやって、この空間に入ったの?」
…………。
………………。
…………──ん?
「だって、此処はリディア……あ、こっちのローブ着た、魔法使いです!って格好の子のことなんだけど」
──うん。
それは分かります。
「此処はね、リディアが魔法で作った、異空間なんだよ。普通はリディアの許可が無いと、この空間には入って来られない筈なんだけど……」
「えっ」
一体どうやって入ったの?
3人から視線で問われて、今度は私がびっくりした。
な、ななな何それ!?
私こそ訊きたいです!
「って言うか、聖剣を喚んだんやけどな~」
綺麗な藤色の髪を指先でくるくる弄りながら、魔法使いの女の子──リディアちゃんが不思議そうに言った。
……んん?
えっと……どういうこと……?
「ウチは聖剣をこの空間に喚んだんや。せやからカナメの言った通り、此処には聖剣しか入られへん筈なんやけどな~……」
異空間。
魔法。
聖剣。
召喚。
聞き慣れない……ううん、聞いたことのあるキーワードばっかりなんだけど、よく分からない。
全く理解が追い付かない。
先輩への申し訳ないって気持ちと、理解できないことへの不安で、私はパニック気味になる。
「えっ、あの、どういう……??」
「あ~、落ち着いて、響。もう少し噛み砕いて言うね?」
にこにこ顔で、先輩が助け船を出してくれた。
ぽかぽか陽気みたいな笑顔が、大丈夫だよって言ってくれてるみたい。
私は何だかホッとして、ちょっと冷静になれた。
「──えーとね、そもそも僕達が此処に来たのは、聖剣の力を貸して欲しいからなんだ」
「……聖剣……」
「そやそや、オトネが持ったはるんやろ? ウチらの国出る時に、王さんから渡されたアレや」
覚えてる。
借り物だから、奏のお城に住まわせてもらってる今でも、ちゃんと保管して──。
──え?
……あれ?
先輩、さっき何て──?
「──その聖剣を、僕達に譲ってくれないかな?」
(…………──え…………)
知らず、胸元で手を握る。
身体が強張ったのが、分かった。
だって。
でも。
待って。
それって。
それって、つまり──……。
(先輩が……奏と、戦う……の……?)
途端。
がらがらと。
何かが崩れていくような音がした。
(──どう、しよう……)
戦うの?
2人が?
(──どうしよう……)
指先が冷たい。
足が震えて、立っているのがやっとだ──。
新キャラ登場です!
六条先輩は優しく穏やかで天然な人です。
次回、魔王を出せれば良いなぁ。
お読み頂き、ありがとうございました(^^)