第4話
お読み頂き、ありがとうございます!
前回に引き続き、織音の心境に変化が起こります。
「──これ、サキュア。不敬ですよ」
「え~、いいジャン、これぐらい! アスタロトってホント固いよね~!」
アスタロトさんが、自然な感じで窘めた。
交わされる会話に、はっとする。
あ、危な……!
何ぼーっとしてたの、私!
「って言うか、ホントそれどころじゃないんだってば。ねぇ? マオーサマ」
「そうだな」
「? 何かあったのですか?」
不思議そうに主を見るアスタロトさん。
その視線を受けながら、奏──魔王様が、頷く。
「あぁ、実は──」
──その、刹那。
城内に、凄まじい爆発音が響いた!
聞き慣れない音が、お城を震撼させ。
耳がきーんと痛む。
同時に、床も激しく揺れて。
地震のようなそれに、私は立っていられなくなった。
わぁあ!
崩れるように座り込んで、目を白黒させる。
「姉さん!」
急いで駆け寄る奏。
腕に絡みついていたサキュアさんを振り解いて、一目散に来てくれた。
そのことに、私は。
(……──嬉しい、なんて……)
例え一瞬でも。
どうして。
どうして、私……。
そんなふうに、思っちゃうんだろ……?
「姉さん! 大丈夫!?」
「……──あ、うん……ありがと」
私の無事を確認できて、奏がほっと微笑む。
それに、思わずどきっとした。
でもその次には、奏の表情が変わって。
「──アス、何処がやられた?」
振り返らないまま、そう尋ねる彼は。
もう、弟の顔じゃなかった。
「はっ、正門の結界が破られた模様です」
「え~正面突破ぁ? って言うか、もう来たの?」
「あまりにも早過ぎる。……術者でも居るのか?」
アスタロトさんやサキュアさんと会話しながら、奏がひょいっと私を抱き上げる。
何でもないみたいに、涼しい顔で。
「──ッ! ……ちょ、か、奏……!?」
(ここここれ、お姫様抱っこじゃないの~!)
軽々とやってのけてるけど、相手が相手だけに……って言うか人前だし、恥ずかしい!
降ろして!
そう叫ぼうとしたのと、奏が口を開くのがほぼ同時だった。
「姉さん。聖剣は今何処にあるの?」
「──えっ?」
「あれだよ。僕達が召喚されてすぐ握らされた、持ち主を選ぶとか言う、ご大層な剣」
「……何か、言い方キツくない……?」
何というか、刺々しいなぁ。
自分が使えなかったから?
何だか忌々しそうに言う彼に、私はえぇと……と首を捻る。
「……部屋に置いてたんだけど。今朝見てみたらね、無くなってて……」
「無くなってた?」
途端、きゅ、と寄せられる眉。
怪訝な顔も本当イケメンさんだな君はー。
「うん……私も探してるんだけど……やっぱ、まずいよね? 借り物なのに」
「いや、借り物って言うか……。──あぁ、分かった」
抱き上げたまま私に顔を近付けて、奏が急に表情を緩めて納得した。ちょ、近い近い近い!
「……──今、聖剣は、姉さんの中にあるんだね」
「……エッ……??」
「ほんっと忌々し……いや、何でもないよ? 聖剣はね、姉さんの中に吸収されて、姉さんを守ってるんだよ」
「……そ、そう、なの……?」
そ、そう、なんだー……。
通りで、何処にも見当たらないわけだ。
魔法がある世界だもんね。
聖剣が私の中にって、何か変な感じだけど、ありえそうだなぁ。
「──それは……、一先ず安心と言うべき、なのでしょうか……?」
状況を理解したらしいアスタロトさんが、何だか苦い顔で言い捨てる。
え、どうしたの?
隣では、サキュアさんもアチャーみたいな顔してた。
「……そうだな……。だが、これで一先ず『奴ら』も危害を加えたりしないだろう」
奏も何だか怖い顔だった。
えっ?
な、何?
一体どうしたの??
「か、奏、どういうこと? 何があったの?」
「──姉さん」
「──『勇者』が、召喚された」
静かに響く、弟の──魔王の、声。
それまでの混乱状態だった私は、嘘みたいに黙り込んだ。
て言うか、言葉が見付からない……。
「………………──ぇ?……」
そんな。
だって。
何で?
どうして?
…………もしか、したら──……。
(……『前任者』が、魔王を倒せてないから……?)
もし。
もしも、そうだとしたら──。
「…………わ、たしの、……せい……?」
私のせいで。
他の誰かを、巻き込んでしまった……?
かたかた。
小さく、手が震える。
背筋には、冷たい何かが滑り落ちてゆく。
ショックと、自責と、後悔と。
色んな思いが、頭の中をぐるぐる巡って──……。
「──それは違うよ」
きっぱり。
考え込みかけていたところを、迷いの無い声で断言された。
すぐ近くから聞こえたそれに、私はゆるゆる顔を向ける。多分、顔面蒼白になってるんだろうな。
見上げた先は勿論と言うべきか、奏だ。
魔王の名前とは裏腹に、とても優しい表情を浮かべてる。
まるで、甘い砂糖菓子みたい。
「姉さんは、何も悪くないよ」
「……奏……」
「勝手に僕らを召喚したのも人間だし、勝手に今回の召喚を強行したのも人間だ」
そっと顔を寄せ、耳元で言う奏。
ちょ、くすぐったいよ!
「……ちょ、奏……!」
「ふふ。姉さん、可愛い」
こっちの心境を知ってか知らずか、弟は楽しそうだ。
深紅の瞳が細められ、くすくす笑ってる。
「……──ご歓談中、大変申し訳ありませんが」
不意に響いた言葉に、はっと我に返った。
この声……アスタロトさん!
(か、完全に忘れてたー!!)
艶然と微笑む奏に見入って、すっかり忘れてた。
ちら、と目をやると、何だか申し訳なさそうな、気まずそうな……。
ご、ごめんなさい!
「……そう思うなら、邪魔しないでよ」
さっきまでとは打って変わった、冷たい声。
同一人物であることを疑うそれに、びっくりして振り返る。
「は。申し訳ありません」
「そ~っとフェードアウトしよっかな~とは思ったんだケドネ☆」
きびきび頭を下げるアスタロトさんと、てへぺろするサキュアさん。
対照的だなぁ……。
て言うか、絵になるなぁ……。
そんなことを思っていると、頭上で舌打ちが聞こえた。
「──ちッ。他の奴らは何をしているんだ」
こ!
ここここ怖ッ!
不機嫌ですが何か?って顔で、奏は文句を言っている。
こんな弟は珍しい。
「第1層は突破されましたね」
「早いね~。何? ホント、術者でも居んの?」
「特殊な魔法を使う者が居るのか? …………いや、これは──」
思案しながら、奏が呟いた。
その、刹那。
ぽぅ、と。
私の身体が、光に包まれた。
「──ッ!??」
柔らかな白い光は、目を射ることは無い。
でも、私を不安にさせるには充分だ。
奏に抱き上げられながら、パニックに陥った。
「──えっ、なに、何これ!?」
見慣れた筈の自分の掌を、信じられない思いで見る。
淡く輝くそれは、まるで自分のものではないみたい。
驚いたのは、私だけじゃなかった。
奏も目を見開いて、私を見ている。
「──これは……召喚魔法!?」
アスタロトさんが、そう叫んだ。
私にはよく分からない言葉だったけど、何かヤバそうということだけは分かる。
奏も珍しく、動転してた。
「姉さん!!」
皆を呆然と眺めながら──。
ふつり。
私の意識が、途絶えた。
織音、浚われる?
さてさて、魔王様はどうするのでしょうか?
誤字、脱字等ありましたら、ご指摘よろしくお願いします。