第1話
『光の勇者と闇の巫女』の続編です。そちらを読まないと、内容が分からないと思います(^-^;)
(……──あ、まただ)
細かな模様の施された、豪華な扉を開けると。
其処には、砂利の数々があった。
扉を開け閉めする廊下スペース一杯に敷き詰められたそれに、私──響 織音は小さく息を吐き出す。
扉を動かす度に、ざりざり嫌な音がする。て言うか、廊下が傷付いてないかな。こんなにピカピカ綺麗なのに、それは頂けないなぁ。
いやぁ。
何か此処んとこ毎日、何かしら落ちてるんだよねー。
ある意味見慣れちゃった光景に、私はくるりと踵を返した。
(こないだリズリスさんに貰っといて良かった~♪)
自室の片隅に置いていた箒とちり取りを手に、意気揚々と掃除を始める。
掃除・洗濯・料理の家事なら一通りこなせるからね!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
皆様、お久しぶりです。
お元気でしたか?
私はこの通り、風邪もひかずにピンピンしております。
先日、元弟で現魔王様の奏くんによる
「織音は我が妃だから、そのつもりで接するように」
意訳:「僕の織音に何かしたら只じゃおかないよ☆」
というトンデモ発表の後。
私はすんごく極端な対応を受けるようになりました。
1つは、優遇してくれる人達。
リズリスさんみたいに、純粋に私に好意を持って接してくれる人から、ご機嫌取りの人達まで。
色々居るけど、まぁこっちはにこにこしながら有り難く好意を受け取ってる。
で。
もう1つ、が。
私を快く思っていない人達。
今のところ危害を加えられることは無い。
無いけど、こういう地味~な嫌がらせが毎日続いてる。
朝起きて扉を開けたら、其処に何かしらばらまかれてるんだよね。
今日みたいに砂利だったり。
小石だったり。
枯れ葉だったり。
前の晩までは無かったことを思えば、きっと夜中に持ち込んでるんだろうなぁ。
(……其処までして、嫌がらせ、したいかなぁ……)
何かもう、逆にお疲れさまです。
はーあぁ。
思わず溜め息を吐いていると──。
「……──織音様」
「ヒッ!?」
び、び、ビックリした!
ビックリしすぎて変な声出た!
慌てて振り返ると、廊下の少し向こうに佇むアスタロトさん。
何だか困惑した面持ちで、こっちを見てる。
折角のイケメンさんが台無しですよー。
「な、なんだー。アスタロトさんかぁ。あービックリしたー……」
「何だか私はいつも貴女様を驚かせていますね」
「そうですね、もうちょい穏やかに出現してくれませんかね」
「ふふ……そういう風に仰るのは貴女様ぐらいですよ」
くすくすと可笑しそうに笑うアスタロトさん。
美形は何しても美形ですねー。
「──ところで」
「ハイ?」
す、と細い指で示されたのは、私の手元。
もとい、掃除用具。
気のせいか、目が細められたような。やめてください、私小心者なんですから。ビビっちゃうよ。
「……え、と……何でしょう?」
「それは一体、どういうことで?」
うわ。私の言葉に被せる勢いでしたね。
──じゃなくて。
「えーと……どうって……」
「……言葉を改めましょう。何をなさっているのですか?」
「え? 掃除ですけど」
答えた途端、額に手を当てながら天を仰ぐ目の前の麗人さん。
え? な、何、どうしたの?
「…………織音様、因みにこの件を我らが主は?」
未だ天井を睨め付けたまま、そう尋ねられた。あれ、今溜め息吐きませんでした?
「えぇ? 奏? 知らないと思うけど」
言ってないし。
て言うか、言ったら言ったですんごく面倒なことになりそう。
想像してから思わず眉をひそめた私に、アスタロトさんがやはり、と零す。
「…………織音様」
「えッ、あ、いやあの、大丈夫ですよ? こうやって誰かが来る前に掃除しちゃえば、綺麗になるんですし」
アスタロトさんは額から手を外して、ゆっくり私に顔を向けた。あの、眼光怖いです。
「……織音様」
「そんな、奏に言う程のことじゃ──」
「織音様」
わお。
今度こそ、私の言葉に綺麗に被せて来ました。
あ、目が怖い。
「──今までは、『この程度』で済んだから良かったものの」
……ん?
この程度?
どういうこと?
小首を傾げる私に、今度は溜め息を吐く彼。
わー空気重いなー。
「……貴女様は、危機感が無さ過ぎます」
溜め息と共に吐き出される言葉。
それに対して、そんなこと無いですと反論しかけて。
「──これが一般的な毒草だったら、貴女様は今頃意識不明ですよ」
私は押し黙るしか、無かった。
お読み頂き、ありがとうございます!
まずは織音の日常を。
次回は悩める魔王様のお話です。