未満と以上
「なあ、明日ちょっと付き合ってクレマセンカ?」
講義の帰りに呼び止められて、振り向いたら言われたセリフ。
「なんで敬語?」
「ものを頼むとき丁寧に言えって言ったのお前だろ…」
で、どうなんだ?というふうにみられて、私は、大丈夫だよと返事を返す。
内心はドキドキだけど、平然を取り繕った。
「じゃあ明日、1時に駅の東口前な。」
そう言って、手をふり帰っていくのを私もふりかえし、帰路につく。
どうして私をさそったんだろう。明日は、特にイベントもない。
バレンタインや、クリスマスでもなく、私の誕生日も、1ヵ月も先だ。
帰宅すると、タンスを開け服を見る。
友達以上彼氏未満のような関係でも、二人で出掛けるのはデートなんだろうか?
そういえば、どこに行くのか聞くのを忘れた…
携帯を取りだし、LINEをおくる。
『そういえば、明日、どこ行くの?』
『アウトレットモールに行く予定。』
『リョーカイ』
買い物みたいだし服装は、気合いを入れすぎないようにした。
相手が、そんな気持ちではないときに凹む自分への保険。でも、期待する自分がいるのも本当で…
複雑な感情を抱えて、次の日を迎えた。
「おまたせ‼」
「よお‼」
時間の5分前。私を探している姿を見つけ声をかける。
電車に乗りアウトレットモールへ向かう。
途中で、何を買うのか聞くと、
「ん~女の子の喜びそうなものかなぁ。」
ちょっと笑って、答える彼。
「難しいこと言うね。」
どんな子にあげるの?好きな子でも出来たの?そんなふうに聞きたいけれど。それを聞くと、都合の悪い答えが帰ってきそうで、心の中に質問を留めた。
アウトレットモールは広い。
「具体的な、要望はないの?」
女の子の喜ぶものなんて幅が広すぎる。
彼はちょっと考えると、
「お前の好みで選んでみて。」
という。
「○ルメスとか、グッ○とか?」
「本気で言ってるか?」
「すいません。」
私は、ブランドには、興味がない。それを彼は知っているのだ。
フラフラと、ウィンドウショッピングをしながら、アクセサリーショップをのぞきこむ。ブライダルフェアのスペースのほかに普段使いのシンプルなペンダントトップや、クリスタルで飾られた小物を入れなど、スペースを広げて置いてある。
「これは?」
思わず手に取ってみる
「それは、予算オーバー」
なるほど、桁が4つを越えている。
個人的には、クリスタル装飾が施されたクマの小物入れが気になるけど…
いくつかみて、シンプルなクロスのペンダントを手に取る。
これなら、普段使いも出来るし会わせやすい。
「それ、いろんなとこに合わせやすそうだな。」
「うん。いいと思う。」
彼も、同じように感じたようだ。
彼が店員さんを呼ぶ。
他の子にあげるのかなぁ…そう思うと、包みをみたくなくて、
「ちょっと私、トイレいってくる。」
そう言って、私は、ちょっと逃げてみた。
帰ってきたときは、ラッピングされた袋を持っていた。
誰に渡すのかわからないきれいな包みを視界に入らないふりをした。
「さて、付き合ってくれたお礼にお茶でも飲んでくか?」
おごってもらったコーヒーは、いつもより苦く心に広がった。
1ヵ月たった私の誕生日は、日曜日。
何てことをする予定も立たず迎えた。友達もごめんね。といいながら彼氏とデートらしい。夜には来てくれるが…
所詮は、友情より恋愛である。
恋愛と言えば、あのプレゼントの包みは誰かの元へいったのだろうか?
それを聞けない私のいくじなさに少しため息が出る。
朝早くから目が覚めてしまい部屋の掃除でもするか…と、ゆっくり体を起こした。
ピンポン。
家のチャイムがなる。
誰だろうと、インターフォンで確かめると彼が立っていた。
ちょっと待ってて!と、伝えると慌てて着替え玄関を開ける。
「おはよう。どうしたの?」
「お誕生日おめでとう。」
差し出されたのはあの包み。
でも、ペンダントにしては大きい?
「開けていいの?」
彼は無言でうなずく。
包み紙をゆっくりほどいていく。
中にはクロスと、クマの小物入れ。
「ありがとう…」
「お前に渡すのに選んだの、バレバレじゃなかった?」
ちょっと照れた彼に私は、抱きついた。