9.
「電話、ありがとう! 助かった! あと拓海、ママから電話あって、拓海のこと探してたよ? なんかスーツがどうのこうの。」
「あ、やべっ……。」
「じゃ、またね。」
愛加里さんは、ふわふわキラキラした眩しいものを感じさせながら、再び去って行った。
「いや、スーツって言うのは、親戚の結婚式で着ていくやつで、制服、今新しいの頼んでるとこなんだけど、間に合わないから。」
一生懸命説明してくる拓海が可愛いかった。
こんな一面もあるのか、と微笑ましくなった。
「で、今日、スーツ見に行く約束をしてて……。」
「うん、うん。行ってきて?」
「いや、いい……わけじゃないけど……。」
拓海も、何も入れてない筈のアイスコーヒーのストローをグルグル回した。
「拓海、背、何cm?」
「180まであとちょい。」
「大っきいねー。」
「中学ん時はチビだったよ、俺。3年の終わりに急にガーッと伸びて、膝は痛いわ、制服はきつくなるわ、だよ。母ちゃんが大きめサイズで注文しなかったから、今頃こうなる。」
「そうなんだ。」
「イヤだなー、姉ちゃんには会うわ、スーツはあるわ。」
拓海はイタズラっぽい眼差しを向けてきた。キタキタ……という気がする。
「バックレようぜ、ねぇ夏帆、いいだろ? 俺、夏帆と二人でいたいもん。」
「……。」
本人、自覚してないだろうけど、その低音での甘く囁くような声、やめて下さい。
「ねぇ、夏帆、そうしよう? せっかく二人だけなんだからさあ……」
「ダーメ。」
拓海は唇をつき出して、口をつぐんだ。
「ん……、わかった。夏帆がそう言うなら、そうする。」
と、やっと言った。
「じゃあさ、俺んちだけ教えるよ。」
拓海の家! う、嬉しい!
「うん!」
「今朝会ったあの坂の近くなんだけど、俺、今日、自転車で来ていて、あの坂の二人乗りはちょっと……。」
地元の人間ならあの坂道の勾配ぶりはよくわかる。
「それ以前に、二人乗りはダメよ。」
と、言うと、
「夏帆は真面目だねぇ。」
と、言われた。
夏帆は? 夏帆、は? 他に誰かいるのかな? 誰か付き合ったことある子、いるのかな?
ちょっとドキドキした。




