8.
愛加里さんは自分が座ってた席の隣へ、私を座らせた。
「ねえ、拓海の彼女、なんでしょう?」
愛加里さんは小さな声で聞いてきた。
「あ、はい。あの……今日から……。」
「今日!? うわ-、ごめん、本当に本当に、邪魔しちゃったね。ごめんね。」
と、愛加里さんは並んでる拓海のほうを見た。
「じゃあ私は退散するから、あとごゆっくり。」
と、愛加里さんはそそくさと荷物をまとめ始めた。
絶対、サロンでしてるであろうキュートなネイルをした指先で、テーブルの上のスマホやノートを片付けた。
拓海が戻ってくるのとひきかえに、愛加里さんは、
「じゃねー。」
と、明るくひらひらと去って行った。
去り際、私に、
「拓海のこと、どうぞよろしく。」
と、満面の惚れ惚れとするような美しい笑顔を見せて行った。
愛加里さんがいなくなると、嵐が去ったあとのような気がした。
「ごめん、今、大学2年の姉貴なんだけど、アイツうざくって。」
「いいよ! そんなこと言わないで。」
「いーや、マジ、うざい。俺と直矢のこと、変態とか言うしさー。」
「タイムラインのこと?」
「そう。だから女子は見るな、って言ってるじゃねーかよ。」
「でも見ちゃう。」
「マジ!? 見てるの!?」
ハッと思い、顔が真っ赤になる。
「つい見ちゃうよ……。」
「あっ、ま、そうだろうけどさ……。」
私は気まずくなり、アイスラテにガムシロップを入れ、グルグルいつもより多くストローを回した。
「あれ、お姉さん、パスケース忘れてる……。」
「マジ!?」
拓海は心底イヤそうに、愛加里さんの座ってた席を見た。
「アイツ、バカじゃねーの。昨日、バイトの給料日前だから金無いって言ってたのに、どうやってバイト行くんだよ。電車乗って行ってるからさー。」
「これからバイト?」
「わかんねーけど……。」
と、言いながら、拓海はスマホを出した。
「パスケース、忘れてるんですけど?」
拓海はぶっきら棒に電話を始めた。
「は? うん、うん、じゃあな。」
と言って電話を切ると、
「取りに戻ってくるってさー。」
と、心底イヤそうな顔のままだ。
愛加里さんはすぐに戻ってきた。




