5.
私は何となく浮かないまま、自宅へ帰った。
帰るとすぐに2階の自分の部屋へ行き、ベッドに寝転んだ。
明日は部活がある。
明日の部活に備えて、今日は休もう! などと、なぜか頭の中は言い訳がましさで一杯だ。
……夕方は真面目に素振りしよう……。
自分の部屋の掃除は自分でしなくてはいけないのだけど、今日はそんな気分になれない。
スマホケースを新しいものに変え、今までのケースは机の引き出しにしまった。
引き出しの中は、小学生の頃から捨てられないでいるものだらけだ。
それを100均で売られているケースや仕切りを使って、片付けておくのが好きなのだ。
ケースや仕切りには、テープやシールでデコレーションするのも楽しみの一つだった。
またスマホが震えた。拓海からだ。
なぜか私の胸の鼓動がドクンと高まった。震えてるスマホは、とてつもなく大切なものに思えてきた。
拓海からの着信なんて、今日が初めてではないのに、なぜかそう思った。
私の手も震えそうになりながら、電話を取った。
「もし、もし……?」
「俺……。」
「うん……。」
「話したいこと、あるんだけど。」
「うん、何?」
「行ってもいい?」
「行っても、て、うち? 知ってるの?」
声が震えそうになってくる。
咄嗟に、うち、と言ってしまったからだ。
拓海の家を知りたいからだ。
なんか、精神的ストーカーになったようで、泣けてくる。
「……あ、知らないけど、大体っつーか……。」
「わかった。うちは本屋さん、伊東屋の近くだよ。伊東屋の前で待ち合わせでいい?」
気を取り直すようにする。
大体、拓海の用事なんて、宿題だ。
伊東屋の近くのファストフードにでも行けばいいのだ。
「いいよ。何時に行っていい?」
「いつでも。なんなら今から?」
「わかった! じゃ20分後に!」
最後、拓海は「ヨッシャー!」といった感じで声も大きくなり、ちょっと訝しく思いながらも電話を切った。
私は急いで髪にブラシを当てて、また日焼け止めクリームとリップを塗り、出かける支度をした。
手ぶらで行くべきか迷う。
でも、話って何だろう?
いやいや、妄想はやめよう。
……私も宿題持って行かないとダメだよね?
でも、宿題なら何の教科? よく聞かれるのは国語と社会だから、私も宿題を持って行こう。
拓海と夏休みも会える!
宿題は嫌いだけど、今は宿題様々よ。
私はトートバッグに宿題と筆記具と財布とスマホを入れた。
洋服も変えたいけど、さっきチラリとはいえ会ったばかりで着替えたら、何か変な気もしてやめた。
今日はシフォンぽいトップスに、デニムの裾を少しまくし上げて、素足にお気に入りのフラットサンダルだ。
お姉ちゃんならアクセサリーもネイルもばっちり決めるけど、私はなかなか思いきれない。
それでも、さっき引き出しを開けた時、お姉ちゃんに貰ったソフトネイルチップがあったのを思い出し、つけてみたくなった。
……夏休みだし、いいよね。
私は時計を見て、クリア地にお花のネイルチップを急いで貼った。お姉ちゃんにうまい貼り方を教わっておいて良かった。
あの時は、半分、聞き流していたけれど……。
だって、好きな人と会うのだから、何かオシャレしたい。
拓海の、
『大学ももう決めてるの?』
『剣道部!? マジで!? 俺は今、物理部だけど、剣道部入ろうかなー、なんて無理無理、俺なんか。』
『ねぇ夏帆、アイツとアイツ付き合ってるんだぜー。いいよなー。』
などなど1学期に交わした会話が頭に浮かぶ。
私はネイルチップを貼ると、急いで家を出た。
約束の時間には間に合う。それでも早足になってしまう。




